紅の雨 その二 貴女の名は・・・
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目覚めて始めて見たのは薄暗い空間を仄かに照らす蝋燭の灯りだった。
ここは一体どこだろう?
少なくとも見慣れている世界ではない。
自分の居たあの場所は…。
ギギギッと何か重厚なものが音を立てると共に、この暗闇に満ちた世界にそれとは違う天然の明かりが一気に入り込み、思わず目を強く閉じる。
「っ!?」
視界が奪われた彼女の耳にはそれを運ぶ風のように心地良い少女の声が聞こえてきた。
「雪ちゃんっ、燐っ!こっちだよ」
「待てよ、しえみっ!」
その後に同い年くらいだろうか、青年の声と共に慌しい足音がこちらに近づいてきた。
再び目を開けると、とても心配そうな顔でこちらを見ている彼女と目が合う。
首まで伸ばした髪には陽の恩恵が宿っていた。
その背後には、身長は違えど旋毛がそっくりな二人の青年たちがいる。
「気がついたんですねっ!……よかったあ……」
そう言うと、しえみと呼ばれた少女はうっすらと瞳に涙を浮かばせる。
裏表がない純粋なそれに思わず見惚れてしまう。
幾年か前には自分もこんな涙を流せていただろうか。
瞳の端から溢れてきそうなそれを掬おうとして腕に力を込めるが、全く持ち上がる気配はない。
不思議に思い、もう一方の腕でも試したが、結果はやはり同じだった。
そうこうしている内に、背の高い彼が黒いチェックのハンカチを彼女に差し出して先を越されてしまう。
心の内で舌打ちしながらもありがとうと、恥ずかしげに微笑むしえみに可愛いと思う反面いえと、自重気味に笑う青年に些かの苛立ちを覚える。
遠慮がちに受け取ったそれで瞳の端を何度か押さえると、再びこちらを向く。
産まれついての赤面症なのだろう、白い頬に刺した赤は紅の如く彼女にとても似合っている。
「気分はどうですか?雨の中、私の家の庭で倒れてたんです」
「ああ……どうやら、首の上しか動かせないようだ」
何という男勝りな口調だろう、二人の青年は同時にある人物を頭に思い浮かべていた。
「っ!?もしかしてっ」
「っ!?失礼しますっ」
「何をっ…」
同時に何かに気づいた彼らに布団を捲られ、一人は寝間着から伸びた腕を、もう一人の眼鏡の青年はまるで医者のような手つきで足を触る。
だが、その感覚さえ今の自分には遠くにあった。
「……根≠セ」
「そんなっ!?」
この場にいる彼女以外の全員が表情を険しくさせる。
その妖艶な肢体には夥しい根≠ェ絡みついていた。
「どうする?しえみの時みてーに離すか」
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