本編 第一部
三章 「戦火の暗殺者」
第二十二話「追撃」
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。だから三十分であいつを捕まえなさい。それも足に負担をかけないで、出来る?」
賢治は、ニッと微笑んで
「余裕だよ」と呟いた。
「三十分だな?分かった。三十分後は、あのエセ魔術師、捕まえてここに戻ってる。約束する。足にも負担はかけねえ」
ひさしぶりにその目が真っ赤に輝きを放っている。戦士が本当に、怒ったり、本気になったりすると表れる不思議な真紅の輝き。すると、賢治はスルッと側転して倒立状態のまま、屋根から落ちていく。呪われた剣を防ぎながら唖然とする友恵に、賢治は、腕だけで手すりを掴むとそのまま体を一回転させてまた空中に舞い上がった。サーカスのブランコ乗りのように器用に腕と反動だけで、信じられない速さで家々の手すりを伝って魔術師を追い始めた。
魔術師は、もう自分を邪魔するものはいないと思っていた。そして群集にまぎれてこのまま消えようとしていた。
そのときだった。前方から、オーダーメイドのスーツを着こなし、真っ黒なサングラスをかけて、ボディビルダーのような鍛え上げられた巨漢の男が、現れた。魔術師は、そいつが自分の方へダッシュしてくるとは思わなかった。すると、気づくと左右からも同じような巨漢の男がこっちに迫ってくるではないか。魔術師は、そくざに、後退して群集に、入り混じる。術を使えば群衆のなかで自分を捕まえる事は無理だと安心したそのときだった。足に鈍痛が走る。あまりの痛みに足をおさえると、痛みの正体を見る。吹き矢だ、毒針を撃たれたのだ。どこから?魔術師はあたりを見渡すと、ビルの一角の窓が不自然に開いている。ビルからここまでおよそ八百メートル、特殊な発射装置のようなもので狙撃したとしても相当な腕だ。そうこういってるうちに痺れとめまいに襲われる。魔術師は、体に巻きつけてあるシリンダーベルトから、緑色の液体の入ったビンを出して、飲む。たちどころに痺れとめまいは消える。もう、油断はしまいと完全に気配を断ち切り、全身をスコープ(遠視鏡)のようにして逃走を始める。
しかし、またもや壁のような巨漢の男が目の前に立ちはだかった。そいつは手をうなられせて自分の肩を押しつぶすほどの打撃を加える。たまらず、体を逃がして、となりの壁に吹き飛ばされる。
するとこの巨漢の男は、にい〜っと微笑んでしたしげにこういった。
「ひさしぶりじゃないか!どうした、軽いあいさつのつもりだったのにそんな大げさに吹き飛ばなくたっていいじゃないか?」
悪夢でも見ているのか、今のがあいさつだと?こっちはわき腹の骨が何本かイッちまってるってのに。
「さあさあ、みんなあっちでまってるぞ、おれといっしょにいこうじゃないか!」
そういって魔術師を、軽々と持ち上げるとその男はさっきのスーツ姿の男たちのところへ魔術師を運び始めた。そこで魔術師は初めて気づいた。こいつと同じ気配が一つ、二つ、三つ
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