第九十話 家族の絆その二
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「彼のところに行くわ」
「八条大学ですね」
「今彼はそこにいるわ」
「そういえばですが」
ここでだ、豊香は思い出した様に智子に言った。
「あの人は温厚な方でしたね」
「人格はね」
「本来は戦う様な人ではないですね」
「温厚で優しい、しかもね」
尚且つだというのだ。
「虫も殺さない様な人よ」
「しかしそうした人もですか」
「大切なものの為には時として」
まさにだ、彼にとっては家族の為にはだ。
「戦うこともあるわ」
「その選択肢を取ることもですね」
「あるわ」
そうだというのだ。
「そうしたものだから」
「そこに至るまで悩んだでしょうね」
「絶対にね。けれどね」
コズイレフは選んだというのだ、戦いを。
「何よりも大切だからこそ」
「家族との絆を」
「そうよ、けれど私達は」
智子も豊香も、そして聡美もだというのだ。
「その絆をね」
「今からお互いに確かめさせてですね」
「確信してもらうわ」
双方にだが特にコズイレフにだった。絆を壊すのではなくさらに強いものにさせそれを確信させる、智子の今の考えである。
そしてだ、それこそがだと言う智子だった。
「それがいいのよ」
「いいとは」
「そう、言ったわね。彼は虫も殺さない人よ」
「つまり戦いもですね」
「戦うと決めたけれど実際に今まで一度も剣士とは闘っていないわね」
「そうですね、実質的には」
「顔合わせ程度はしたわ」
それはあった、だがだった。
「本気で倒す様な闘いはしてこなかったわ」
「一度もですね」
「そう、決意はしたけれど迷いがあるわ」
人は複雑だ、決めてもそれで終わりではないのだ。そこからも己の決断に迷いを感じ揺れ動くものなのだ。コズイレフもまたそうだというのだ。
「だからね」
「その迷いに入るのですね」
「この場合はいいのよ」
コズイレフにとってもだというのだ。
「彼は本音はどうしても戦いたくないのだから」
「それを止めることにもなりますね」
「そう、だからね」
いいというのだ。
「いいのよ」
「望まない戦いは止めることが許されるのなら」
「止めるべきよ」
「そうなりますね」
「どうしても戦わないとならないなら別よ」
ここでもこの考えを述べる智子だった。
「けれど避けられるなら」
「避けるのですね」
「無駄な血は流さないに限るから」
それ故にだった。
「彼もね」
「降りてもらう為にも」
「そしてこの戦いをね」
「終わらせる為にもですね」
「今この策を成功させるわ」
「そして成功する可能性は」
「私は失敗する策は使わないわ」
それは絶対にだというのだ。
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