5:容疑者
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と……」
麻のフードはアスナの事など気にも留めず、その歩みを微塵も緩めなかった。結局、そいつは唖然となったアスナを柱か何かのように通り過ぎ、シリカの手前で立ち止まる。
「あ、あの……?」
「……………」
殆ど泣きながら、勇気を振り絞るようにシリカが尋ねるも、相手は相変わらず何も答えない。
すると突然、右手をゆっくりと……彼女の胸に抱かれて介抱されているピナに伸ばされた。ピナはデイドにぶん投げられたショックのせいか、体を丸めて目を閉じ、伸ばされつつある手に気付かないままぐったりと動かない。
シリカはそれにビクッと身を強張らせ、ピナを抱きしめる力を強め、それを隠すように体を前に折り、振り絞るような切実な声を上げた。
「だっ、だめっ……! もうこれ以上……ピナに、手を出さないでっ……!」
「…………っ」
(お……?)
ここで初めて、どこか不気味だった麻のフードに、人間らしいアクションが見られたことに俺は驚いた。
出した右手の指先を、躊躇うように僅かに動かしながら、迷った素振りを見せつけつつ手を降ろし、やがて落ち込んだ風に頭を軽く伏せながら一歩下がったではないか。
と……
「―――――。」
「えっ……?」
更に驚く事が起こった。
ヤツは伏せた頭を戻し、シリカに向かって何かを小さく呟いたのだ。
俺はアスナよりも更に数歩離れた所からの事だったから、殆ど聞き取れなかったが……確かに、ヤツの僅かに覗く口元が動いたのが見えた。
ヤツの出会って初めて紡いだその言葉を聞き取れたらしいシリカは、身を硬くしていた所を一転、体を起こして目を丸くしていた。
「あ、あなたは……」
「……………」
ヤツはフードをかなり深く被っており、正面に立っていてもせいぜい鼻先までしか見えない。だがシリカは表情を一転させ、驚き、まるで不思議なものを見る風に……
「そこまでよ」
と、凛と張られたアスナの声が俺の思考を断ち切った。
ヤツの後ろから伸ばされたアスナのレイピアが伸び、その首に突きつけられていた。
「少しも止まらないから呆気にとられて、つい通してしまったけれど……もし次にその子に何かしたら、今度こそ刺します。もうこれ以上、この場に混乱を持ち込まないで」
「ア、アスナさんっ、少し待ってくださ………あっ」
シリカよりも言うが早く、ヤツは足早にシリカを通り過ぎ、あっという間に前を歩く集団に加わってしまった。
アスナは結局、共に無視され続けたレイピアの切先を、眉をしかめ眺めてから鞘に仕舞う。だがそれもすぐに改め、シリカに駆け寄る。
「シリカちゃん! 大丈夫だった……?」
「い、いえ……それは大丈夫なんですが
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