5:容疑者
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しても意味はない」
「……………」
未だ続く沈黙。俺は宥める様に、あくまで穏やかな声を心がける。
「あの子と使い魔の為にこんなことをしてくれたのなら、もう、充分だ……」
ここで麻のフードが乾いた衣擦れの音を立て、数秒だけ彼女らを振り返った。
……俺は掴んだ手首をゆっくりと離し、剣の刃先を下ろす。
「どっちも無事だ。落ち着け……」
「……………」
依然として口を開かないままだったが、長い静寂の後……デイドに武器の矛先を向けたままだったが、ようやく闖入者はゆっくりと数歩下がった。やがてデイドもぶつぶつと忌々しそうに俺達に何かを呟きながら、軽鎧にこびり付いた土埃を手で払いながら立ち上がる。
僅かに間を置いて、俺は再びデイドに刃を向け、牽制する。
「あんたもあんただ、デイド。そもそも話を進めてくれと言っておいて、シリカにイチャモンを吹っかけたのはあんただ。ここは二人が謝る所だと思うぜ?」
「チィッ!!」
「……………」
デイドは謝らずに全員に聞こえるようなわざとらしい舌打ちをし、第三の容疑者は結局、徹頭徹尾黙ったままだったが……二人は渋々ながらも武器を背中に仕舞ってくれた。
他の者も、ようやく場は落着したと解釈し始めたようだ。武器が懐に戻される金属音が連続して耳に届く。
「ふぅ……じゃあ、気を取り直して続きと行きたいんだが……そろそろ騒ぎに人が集まってくるだろうな……。みんな、場所を変えよう」
俺達は物騒な声や音を立て過ぎた。増してや、ここは人気の少ない村のド真ん中である。残る俺達以外は解散したものの、ある者は宿や店に戻ったり、早速狩りに出かけたりしたのだろうが……一度はほぼ全員が、ここに集まったのだ。騒ぎを聞きつけて戻ってくれば十中八九、俺達に疑念の目が向けられることだろう。死神の調査を謳いながら、早くもそういう失態は極力避けたい。
剣を鞘に戻しながら言った俺の提案に、他の全員が各々の仕草で肯定してくれた。俺が方向を指差して皆がそれに従い歩き出し、最後に俺が続く……のだが。
皆がその方向に向かってこの場を後にしつつある中、麻のフードだけが別方向に歩き始めた。その先には……
「ひっ……」
俺を除いた、集団の最後尾をゆっくりと歩いていたシリカの方向だった。彼女はようやく涙が引っ込んだところだというのに、早くも顔を蒼白にして再び目が潤み始めている。
思えばシリカは今までずっと怯えたままで、とても痛ましく思ったのは俺だけではなかったらしく、
「止まって下さい。何のつもり?」
彼女のすぐ傍を歩いていたアスナが素早く反応し、レイピアの柄に手を掛けて立ちふさがる。だが……
「聞こえないのっ? 止まりなさい……! って……ちょ、っ
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