第143話
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「本当に?」
「ああ、約束だ。」
「そう言って指きりまでしてね。
本当に懐かしいわ。」
制理の言葉を聞いて麻生は何も答えない。
「実はその子とはもう一度だけ会っているの。
こんな風に雨が降っている時だった。
私は傘を差して、公園に向かったら猫が倒れていたの。
原因は分からないけど、凄く怪我をしていた。
私は死にそうな猫を見て泣きそうになった。
強くなるって決めてたのに、泣きそうになった。
その時に、横から誰から猫に触ったの。
瞬間、怪我が一瞬で消えて猫は元気に立ち上がって、どこかに行った。
それを見て、私は大はしゃぎして横にいる人物を見たの。
私は横にいる人を見ると、それはあの子だったの。
その子は何も言わずに公園を立ち去って行ったわ。
傘を差さずにね。」
制理は麻生の眼を見つめる。
麻生も視線を逸らさない。
「そう、こんな風な雨だった。」
二人は黙って見つめ合っている。
制理はその時、胸が大きく脈を打ったのを覚えている。
自分が助けてほしい時にやってくる、そのヒーローのような男の子に。
それを思い出した、今でも胸がドキドキする。
それでようやく気がついたのだ。
自分はその子に恋をしていると。
何で、そんな事を今まで忘れていたのか。
何で、こんな大事な事を忘れていたのか。
沈黙の空気を破ったのは制理だった。
「麻生、貴方があの時の男の子なの?」
「何でそう思う?」
「だって、特徴とか色々似ているし。」
確かにあの時の男の子は麻生だ。
それは麻生自身も分かっている。
なのに、麻生はこう言った。
「人違いだろ。」
「えっ・・・」
「だから、人違いだ。
俺はこの公園には来た記憶はない。
何より、そんな優しい甘ちゃんと俺が同一の人物だと思うか?」
何故、嘘をついたのか自分でも分からない。
でも、ここで本当のことを言えば何だか駄目な気がしたのだ。
本当のことを言えば、制理が危険が及んでしまうような。
麻生の直感がそう告げていた。
その言葉を聞いた制理も少し納得した表情を浮かべる。
「そ、そうよね。
貴様のような奴とあの子が一緒な訳がないわよね。」
「そういう事だ。
じゃあな、俺はもう行くぞ。」
「別に私に聞かなくても、さっさと行けばいいでしょ。」
それもそうだな、と麻生は言って公園を出て行こうとする。
振り向き様に制理は一瞬だけ、あの時の男の子の姿と麻生の姿が重なって見えた。
呼び止めようとしたが、寸前で止まる。
(あいつは人違いよ!
そうに決まっているわ!)
自分に言い聞かせ、制理も別の出口から公園を出て行くのだった。
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