暁 〜小説投稿サイト〜
戦国†恋姫〜黒衣の人間宿神〜
七章 幕間劇
二条館の朝×恋する想い
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っ」

少し考えれば、少々畳に寝転んだ程度で畳の跡など残らない。どうやら動転していた双葉は、まんまと幽のカマにかけられたのだ。

「・・・・本でも読もう」

どこか釈然としない気持ちのまま、双葉は幽の差し入れてくれた本を開く。如何にに幽が人間的に問題のある人物であろうとも、持ってきてくれた本には何の罪もない。それに、双葉がその物語を楽しみにしていた事もまた事実であった。しばらくして、双葉が読み進んでいるのは、古い時代を舞台にした王朝の絵巻。如何に気持ちが落ち込んでいようが、贔屓の書物であれば、自然と意識はその内容へと集中し、その世界の中へと沈み込んでいく。殊に内容が内容だ。幽の求めてくれた本は、遠く離れた恋人達が互いを思い合う物語。

「(この人達も・・・・会えない相手を想って、一日を過ごしたりしたのかな・・・・)」

いつしか都の姫君と、地方へと流れた貴族の青年は、双葉のよく見知った姿へと置き換えられていく。

「一真様も、お健やかならいいけれど・・・・」

だが、そんな双葉の想いと裏腹に、遠く離れた所に住まう貴族の青年は、いつしか苦難に巻き込まれ・・・・。

「あぁ・・・・」

きり、と痛むのは胸元だ。思わず自身のそこに手を伸ばせば・・・・その指先に触れたのは、柔らかな布の感触だった。

「一真・・・・様・・・・」

半ば無意識にそこから取り出したのは、一真が落としていき・・・そのまま返す事もしなかった、彼の品だ。

「一真・・・・様」

きゅっと握りしめたそれを口元に寄せれば、ほんのりと柔らかな匂いが双葉のその身を包み込む。

「(一真の・・・・匂いがする・・・・みたい)」

物語の中で、主人公達は互いの想いを確かめ合うため、幾度も文を交し合っていたが・・・・。一真はこんな想いを押し付けられても迷惑だろう。それに一真には久遠という恋人もいるしまだ見ぬ本妻がいる。だから、この想いを伝える訳にはいかないはずだ。・・・・けれど。・・・・だからこそ。

「私が想う分には・・・・いい・・・・よね・・・・?」

思い出すのは、優しい言葉。穏やかな声と、人懐っこい微笑み。その一つ一つが、手の中の布の柔らかさとほんのりと漂う香りに結びつき、やがて書物の中で姫君を慕う青年の姿へと繋がっていく。

「駄目・・・・私、本当に悪い子になっちゃう・・・・。一真様の物で・・・・こんな事・・・・。ふぁ、ああ・・・・っ」

けれど、その想いは止まらない。いつしか白い布に押し当てられていた愛らしい唇からは甘い吐息が漏れ。畳の上に転がった小さな身体は、自らの想いに耐えかねたようになっていく。そしてその動きを止めたのは、ずっと見ていた一葉だった。どこか罰の悪そうな顔をしていた。何でもいつものように将軍の代役を頼もう
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