七章 幕間劇
二条館の朝×恋する想い
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の時・・・・一真様に言えなかったんだろう」
そんな布を見つめながら双葉が巡らせるのは、そんな想い。一真が立ち去った後、落し物の存在に気付いたのはすぐの事だ。如何にに双葉が体力に自信がないとは言え、少し走るか、それこそ使いを出せばすぐ追いつけたはずだった。落し物だと言って手渡せば、全てがそれで収まったはずなのに・・・・。
「どうして・・・・」
双葉が選んだのは、その布を持って一真を追いかける事ではなく・・・・。
「・・・・懐に入れてしまったのだろう」
一真はまた会いに来ると言ってくれた。ならば、その時に返せば良い。拾ったその時、すぐに追いかける事も思いついたはずなのに・・・・。双葉はその手拭いを、その言い訳と共に自身の胸元へと収めてしまった。
「私・・・・悪い子だ・・・・」
何かと理由を付けて、一真の落とし物を自分の物にしてしまった。それが悪い子だというのは、よく分かっていた。けれど・・・・。けれど・・・・。と、考え込んでしまったが幽の言葉で我に返った双葉。布は胸元に押し込めて幽を室内に招きいれた。
「先程市に買い物に出た際、双葉様が以前贔屓にしていらした本の新作を見つけましたので」
「本当ですか?・・・・ですが」
一瞬喜色を浮かべかけるが、双葉の表情はどこか暗いものに戻ってしまう。その表情の意味を解したのだろう。幽も目を細めて、何か悪戯でも思いついたかの如き笑みを浮かべてみせる。
「ああ、お気になさいますな。それがしも興味がありましたゆえ。ですから・・・・これは公金で買ってきた訳ではなく、それがしの私物を双葉様にお貸しする、という事で一つ」
「幽・・・・」
「それがしも何かと多忙な身故、しばらく読む暇がありませぬ。双葉様が読み終われば返して頂いたので構いませぬゆえ」
「良いのですが?」
「構いませぬ。それがしも読み終わったら、また書物談義でも致しましょうぞ」
それは、幽の気遣い半分、本音半分といった所だろうな。彼女の本来の主は幽や双葉が好んで読むような類いの本は、ほとんど興味を示さない。
「・・・・ありがとう、幽。その時は明るい内か、月明かりの下で致しましょう」
幕府の財政は、書物は愚か、その日の灯火の油を買う事にも困窮する有様なのだ。その事をよく知っているだけに、双葉の言葉には、幽も困ったように笑うしかない。
「そうですな。その時は・・・・頬の畳の跡が目立たぬ程度の明るさの方が、宜しいかと」
「・・・・・・・っ!」
「ははは。それでは、失礼いたします」
「うぅ・・・・幽ったら・・・・」
臣下の娘が立ち去った後。小さくぼやき、鏡に顔を映し出せば・・・・。頬には畳の跡など、付いていない。
「・・・・・うぅぅ。幽・・・・
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