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[8]前話
考える間でも無かった。あいつがこんな事で悩むはずがない。あいつの答えなんて決まってる。
俺は神機を構え、その殺意をアラガミに向けた。
ずっと昔、窮地に陥った時、あいつにかけられた言葉を思い出しながら。
『戦わないで怖がってりゃ喰われて負ける。でもな、戦って俺達が負ける訳がない。俺達はゴッドイーターだ。神を、喰らうんだろ』
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
こんな所で死ぬ訳には行かない。身構えるヴァジュラに刃を叩きつけようとした、その時だった。
「……っ!?」
標的が、消えた。正確には、視野から消えた。
恐る恐る視線をずらせば、ドス黒い「何か」が、ディアウス・ピターに食らいかかっていた。
「う……あ……?」
見たことの無いアラガミ。紫色の五枚のマントと獣のような体格から、恐らくヴァジュラ系統なのだろう。
しかし、だとしたらおかしい。連中には同種の者を喰べないという本能「偏喰因子」があるはずだ。
『グァァァアッ!』
ディアウスや他のヴァジュラも、俺から視線をそらし、その何かにのみ威嚇している。
これほど激しく威嚇するヴァジュラなど初めて見たが、こちらには好都合だ。こっそりと群れの合間を抜け、少し離れた場所に避難した。
崩れたビルの陰に入り、気絶した2人を寝かせる。これだけの傷を負い、気絶までして神機を手放さないとは、見上げた物だ。
しかし、それを褒めるにはまだ早い。まずは救難信号を出さねばならない。
そう思い、タツミの無線機を彼の装備から取り出した時だった。
『ギャアァァァァァァ!』
強烈な悲鳴に、思わず耳を塞ぐ。
音が止み、振り返ると、そこには壮絶な光景が繰り広げられていた。
溢れ出る血潮。
砕け散る甲殻。
痙攣する筋肉。
ズタズタに引き下がれたディアウス・ピターの首を、あの黒い何かが口からぶら下げていた。
よく見るとそのアラガミは、体の何ヶ所かにオレンジ色のコアを持っているようだ。
何とも禍々しい出で立ち……そもあれには、顔と言えるような部分がない。
せいぜい巨大な口が、穴のように深く開いている程度だ。
そして、バキバキと音を立て、ディアウス・ピターの生首までも、噛み砕いてしまった。
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