第一章 ジュエルシードを巡って 〜海鳴 P・T事件〜
第一話 始まりはいつ、どの世界だって突然なものだ
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"なあ・・。なんで私はお前を拾ったんだと思う?"
深く沈む。視界が霞み、記憶が薄れ、明瞭だった姿は影となり薄くなっていく。大事な物だったのに、俺はその問いに対する答えすらもう思い出せない。この会話がどういう状況で、どういう風景を見ながら言葉を交わし合ったのだろうか
"確かにそれも一つある。だが一番の理由は他にある。お前が私に似ていたんだよ"
大切だった人。俺よりもずっと生きていて、でも容姿から判断できる年齢は俺とそこまで変わらなかった、気がする。姉貴分、と言っても通じた気がする。もうその姿は思い出せず、文字でしか、記録としては辛うじて残っている程度
"強くあれ、私はそうお前を育ててきた。もっとも、まだまだ私の方が強い。でも、せめていつか、遠い未来だっていい。お前が本当に守りたいもの、譲れない物が心の中にできた時に、それを守れる位の力を与えられるようにと、そう願って育ててきた"
この後、俺は頭を撫でられた様な気がする。そして脳裏にはほんの一瞬だけ、笑顔の女性が浮かび上がり、その像が消えた瞬間に、今まで感じていた沈没感と浮遊感が消え去った
俺は何故か、頭の中に浮かんだ人に対して感謝を伝えるべきだと感じ、その言葉を口に出す
"ありがとう 師匠"
その言葉がトリガーとなったのか、この瞬間に俺とその人を繋ぐ最後の記録が閉ざされ、覚えていたということすらも思い出せなくなってしまった
ーーーーーーーーーーーーーー
「う.....く」
目をゆっくりと開ける。視界に広がったのは満天の星空だった。俺は一先ず上半身を起こそうとして、体に痛みが走った
我慢できる程度だったので、無視して体を起こして立ち上がる。足がふらつくが、近くにあった木を支えにすることで落ち着いた。周りを見渡すが見えるのは森林のみ。人の気配もないし、都会特有の人工的な物でもないだろう
恐らく天然の森であるということを確信するのにそう時間はかからなかった
(現状把握から。俺は一体....少し待てよ。何をしていたとか、どうしてこうなったとかそういうレベルの問題じゃない)
「まじか...」
最悪、なのだろう。自分の名前以外覚えていないということに気がついてしまった。動揺するが、一旦深呼吸をして落ち着く
「俺の名前は遠藤お...いっつ!」
頭に強烈な痛みが走る。支えがなければ崩れ落ちていただろう。こめかみを手で押さえる。そうすることで気休めでも少し楽になった気がした。痛みが収まったところでもう一度
「俺の名前は、遠藤蒼炎...なのか?」
俺の中の何かに引っかかるが、どうでもいいと思い直す。今大事なのは名前よりも今自分がどうなっているかの把握だ。名前については後で考えよう
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