九幕 湖畔のコントラスト
14幕
[1/2]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
一つ救いがあった。妻が理解を示してくれたことだった。
剣を握り血だまりに立つ彼を見ても、妻は壊れることなく、だが彼に抱き縋り、泣いた。
――そして、予定調和はある日、大きく崩れた。
“……ふたり、め……?”
“そう! 今日病院に行ってきたわ。二人目の子よ。私と、あなたの!”
“……っラル!!”
“きゃあ! もう、喜びすぎよ、ルドガーったらぁ”
彼の知らない未来。愛する人との新しい未来。嬉しくないはずがなかった。
“えぅ、おねーたになぅの?”
まだ舌も回らない一人娘にもその素晴らしいニュースを伝えた。
“そうだよ。エルに弟か妹が出来るんだ。エルはお姉ちゃんだ”
“とーと! ぃもーと! きゃーっ”
娘も喜んでくれた。彼は妻と娘と共に、指折り数えて二人目の我が子に会える日を待ち望んだ。
…………
……
…
ルドガーはすでに満身創痍だった。ルドガーだけではない。ミラもローエンも。湖に投げ出されたジュードとフェイは未だ浮かんで来ない。
ヴィクトルは――10年後の自分はあまりに強すぎる。
「ヤダヤダヤダ! エル、こんなのヤダよぅ! お願い、やめて、パパ! ルドガー!!」
辛うじて閉じずにいる意識に入り込む、エルの悲鳴。
(泣かないでくれよ。泣かせたいわけじゃない。悲しませたいわけじゃない。俺が今日までやってきたのは、君のささやかな願い事を叶えるためで。君の喜ぶ顔が見たいからで。俺は、君が)
影が差した。見上げるまでもなくヴィクトルだろう。シルエットからするに、骸殻の槍を振り上げて、ルドガーに引導を渡そうとしている。
避けなければ、逃げなければと思うのに、手足が動いてくれない。
ギイィィィ…ン!!
槍がぶつかる音がした。だがルドガーの体はどこも無事だ。新しく傷はできていない。
訳が分からず顔を上げると、ヴィクトルの槍とルドガーの間に、青いジグザグ模様の壁があり、それがヴィクトルの槍を防いでいた。
不利と悟ってかヴィクトルが下がって距離を取った。
ルドガーとヴィクトルの間に立った二人を見て、ルドガーは思わず涙が出そうになった。
「ジュード、フェイ……っ」
無事でよかった。この局面で守ってくれたことが嬉しかった。それらを伝える余裕があれば伝えるのに。
防壁にジュードが快気孔を重ねる――エイドオール。防壁の内側に治癒のマナが広がった。全快まではいかなかったが、あの男にしゃにむに挑める程度の活力は戻った。
「動かないで。キズ、全部治してないから」
「ありがとな、フェイ。でも俺、あいつが許せない。お前やエルをモノ扱いしてるあの男が」
「ちが
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ