九幕 湖畔のコントラスト
12幕
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沈んでいく。湖の底へ向かって。服が水を吸って重くなる。
まるで下に磁石があるように、ジュードとフェイは水底へ引きずり込まれていた。
(せめてフェイの傷だけでもっ)
そう思うのに、投げ出された衝撃と水流でフェイと離れてしまった。
手を伸ばしても届かない距離に、ジュードは激しく焦れた。
(まだミラもルドガーも上で戦ってる。帰って力を合わせないとヴィクトルには勝てない。なのに、こんな時に僕は――!)
伸ばしていた掌を悔しさで拳に変えた時だった。パン! と水を弾くように、ジュードとフェイを囲んで等身大の泡が現れた。
「ハッ……! げほっ、げほっ」
空気がある。突然入ってきた酸素に体がびっくりして咳き込んだ。
フェイも同じようで、泡の外壁にもたれた状態で咳き込んでいる。ジュードは慌ててフェイに泳ぎ寄って、彼女を確保した。
「大丈夫? フェイ」
「うん…ジュード、こそ…」
「僕は平気。フェイが守ってくれたから」
フェイの背中の刀傷に治癒功を当てる。かなり深い。ジュードにせよフェイにせよ、あの時のヴィクトルは本気で自分たちを斬り捨てるつもりで剣を揮ったのだと思うと、やりきれなかった。
(この世界の〈僕〉は〈ルドガー〉に殺された。友達だと思ってたの、僕だけだったのかな)
俯いた――その時、ジュードは衝撃的なものを見た。
水底に、人がいる。遠目には青年。
〈彼〉の周りには、黒く蠢く何かがいる。水草といったものではない。魔物が放つのにも似た禍々しいそれが、4つ。
〈彼〉はこちらに掬う形で掌を向けている。掌の上には二つの泡の球。ジュードたちを助けたのは〈彼〉なのだろうか。
「あの人――」
フェイがふわりと水底を目指す。フェイを治療していたジュードも、引きずられる形で向かう。
正面に立って、ジュードはさらに驚愕した。
黒い髪、琥珀色の虹彩、白衣。自分が数年老けたような所を除けば、ジュード自身と言っても過言ではないほど、その人物はジュードと似ていた。
ここは分史世界。そして〈ジュード・マティス〉はヴィクトルに殺され、この湖に沈められた。
『大丈夫? って聞くのも変な感じだね』
するとフェイがジュードから離れて、〈彼〉の胸に飛び込んだ。水に揺らめく白い髪。
〈彼〉は微笑し、ていねいな手つきでフェイの頭を撫でる。
「あなたは、まさか」
『うん。僕は〈この世界〉のジュード・マティスだ』
「じゃあ……」
〈彼〉の背後で蠢くアレらは、分史世界の仲間たちに他ならない。ヴィクトルが10年前に皆殺しにしたという、ジュードの仲間たちの未来の姿。
――ジュードはえづいた。直視に堪えなかった。あんな汚泥が彼らだというのか。
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