第一章 〜囚われの少女〜
行方
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満ちた声とは違い、今度はどこか物悲しそうな声。
『お別れを……しなければならないの』
何を言っている……どういうことだ。僕はただ、いつの日か突然捨てられたはずだ。無理やり引き剥がされるかのように。
『わかってちょうだい。これはあなたのためなの――』
これは母親の言葉なのだろうか。思考が混乱する。何を、どうして分かれというんだ。唯ただ理解に苦しむ。
『あなたにだけは、幸せになって欲しいの。しばらくは辛い日々が続くかもしれないけれど。でもね、これだけは忘れないでちょうだい。私はジャックを愛しているわ。いつまでも――』
そうしてその声は儚く、夢の中に消えた。
今のは何だったんだ――きっと夢だ。何かの間違いだ。……そうでないと。今まで僕が母へ憎しみを抱いていたという事は間違っていたという事になる。
知らないところで、僕は愛されていたとでもいうのか――信じられない。いや、そんな事は信じない。その憎しみの感情で、僕は今まで生きてきたようなものなのだから。
復讐でも誓ったかのような強い想い。それは母親に対するものだけではなく、自らにこのような運命を仕向けた世界の、神へも向けられる憎しみだった。いつも冷え切った瞳で、眼鏡越しに見つめていた、湾曲した世界の。
――ああ、そうだ。そうに違いない。
そうして少年は嘆く。確かめるように。ガラスのように脆い、己の決意を壊さないように。
『この世に。この世に神などいない』
――
ジャックはそれからしばらく、その世界の宙に浮かぶように存在していた。どうすることもできず、自分の行く先もわからない。そうしていると、今度は男の声がした。
「……もうしばらくオマエはそこでそうしてろ」
先ほどのような記憶の中の声ではなく、今回ははっきりとした声だ。
(どういうことだ)
「……ふん。この役立たずが。何も知らないくせに。ずっとここでじっとしてな」
頭の中に響くようなその声は、ジャックの心の声に答えたかのようだった。
「じゃあな――」
(待ってくれ! お前は誰だ。何を知っているんだ!)
しかしそれに答えはなかった。
(ここはどこなんだ……なぜ僕はこんな所に……僕はどうなっているんだ……)
また、さらに混乱していくばかりだった。
(わからない……)
そうして、その意識はそこで途絶えた。
――
物語は終幕を控え、劇場の空気は緊迫していた。
しかし舞台裏は、また違った意味で空気が緊迫していた。
「困ったな――一作上演のみか、寸劇で許してもらうしかないな。脚本もできる限り長く伸ばしたつもり。これ以上は……」
しかしここは観客からは見えない舞台の袖。舞台の表は――どうやら決着がついたようだ。
――
空から地をめがけ
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