第一章 〜囚われの少女〜
魔術
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悪魔の姿をした男は、姫に術をかけた。それは忘却魔術と言われるものだろう。この世界にはそういった魔術、魔法が存在する。
この世界で忘却魔術とは、戦争時の医療から生まれた概念だった。戦場で傷つくのは身体ばかりではなく、精神にも深い傷を負わせた。それは生涯消えない傷となり、その記憶はその人物を一生苦しめ続ける。そこで忘却魔術というものが生まれた。
しかし、高度な技術を要することもあり、忘却魔術を使える者は限られていた。全ての魔術師が忘却魔術を正しく使えるというわけではなく、また、別の目的で悪用しようと考える者も少なからず存在した。
そういった悪徳魔術師は、当然裁かれるのであるが、忘却魔術を使う場合は綿密な計画を要する。そしてその計画を国に報告し、許可を得ることが必至だった。どんな理由があろうと人の記憶を消すものなのだから、それは当然と言えば当然だ。
術を私利私欲のために使う者は悪魔とされた。しかしながら厄介なもので、それを判断する事が難しい場合もある。いかにも誠実そうな見かけをしている者、厚い信頼を得ている者もおり、悪事を企てる者の思考は読めない。
しかし、あの男が邪悪なのは何も見た目に限った事ではなかったという事だ。
「しっかし、参ったぜ。まさか一国の姫に“見える”とはな」
男は劇場を慌てて飛び出し、その上空に浮かんでいた。
「あ。どうせやんなら、さらった方が面白かったか。姫がいないとなったら国中大騒ぎだろ」
不敵な笑みと独り言をするその姿は、なんとも異様だ。
「う……さすがに術を使いすぎた、な……」
男は顔をしかめ、何やら頭を抱え始めた。術を使ったのと引き換えに、副作用をもたらすようだ。どうやら未熟な術者らしい。
ふらふらと下降して行き、そのまま城の傍ら、木の茂みの中に落ちていく。どうやら気を失ってしまったようだった。
男はその中で、少女の記憶の夢を見た。
――
先ほどの憂いが晴れたのか、姫は観劇へ没頭していた。観客と共に、復讐の鬼と化し黒の甲冑に身を包んだ、悪魔の騎士≪ダークナイト≫となったエリオを憐れんでいる。
怪物、悪魔と叫ぶ声が響く。黒い馬にまたがった騎士は黒の槍を振りかざし、それらを一瞬にして掻き消す。
国民は恐れ、憎み、怨んだ。しかし憎悪の感情や怨念は、怪物の中で増幅していき、さらに凶悪な悪魔となるだけだった。
悪魔に魂を奪われたエリオは、その身を悪魔の騎士へと堕落させた。
しかし、ジュリエッタは生きていた。姫という地位を捨て、衣服も脱ぎ姿を変え、独り国を逃げだしたのだ。エリオはそれを知らない。いや、今のエリオにはそれを知ることはできなかった。
自我を失い、人の言葉をきく事のできる耳は、もはや残ってない。心というものや愛というも
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