九幕 湖畔のコントラスト
9幕
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皆がポカンとフェイたちに注目している。ルドガーも、ヴィクトルも。同じ翠眼なのに、その視線を受けるフェイの中では天と地ほどの差があった。
「エル…フェイ…」
ヴィクトルがフェイを睨めつけた。
「家の中で待っていろと言ったはずだ」
「あ…」
「ご、ごめんなさい! パパ、フェイを怒らないで。エルが一緒に行こうって言ったの。だからゆるしてあげて。ね?」
「そうかい、エルが――」
ヴィクトルは優しくエルに微笑みかけると、フェイを向いた。
心臓が大きく跳ねた。どんな仕置きをされるのか。けれども、今はそれどころではない。
(震えるな、フェイ。怯えるな、フェイ・メア・オベローン)
「ねえ…パパ。さっきの…ホンモノのお姉ちゃんって、どういうこと? お姉ちゃんは、ココにいるエルお姉ちゃん一人でしょう?」
「エルも聞いていたのかい」
横の姉は小さく肯いた。あくまでエルにしか話しかけない父。構わない。いつもそうだった。
「大丈夫だ。例え正史世界に生まれ変わっても、エルは変わらない」
「……生まれ、変わる?」
「そ、れじゃ〈今〉のお姉ちゃんの思い出はどこに行くの!?」
「思い出なんてまた作ればいい。パパとエルと二人だけの、正しい思い出を築き直そう」
「思い出にタダシイもマチガイもないよ!」
「――――いい加減、黙れ」
今日三度目の、フェイへの直接のヴィクトルの言葉。だがそれはどこまでも憎しみに染まっている。
「そもそもお前が産まれた時点でこの世界は間違っているんだ。お前さえラルに宿らなければラルは今も生きて私に笑いかけてくれたのに。ここが偽の世界でもまだ生きる希望はあったかもしれないのに」
「…わたし、が……ママを…」
「お前さえいなければ、わざわざ正史世界で生まれ変わるなどという手間をかけずとも生きていけたのに。そうだ。全てお前が台無しにしたんだ、フェイリオ」
「そんな言い方しないでください!!!!」
ジュードが渾身の一撃をヴィクトルに叩き込んだ。並みの剣なら折れてもおかしくないのに、ヴィクトルは剣一本で防いでしまう。
「その人が、ラルさんがあなたにとってどれだけ大事だったか僕には分かりません。でも! 喪ったからってフェイを恨むのは筋違いでしょう! フェイはあなたが愛したラルさんの娘でもあるんですよ!」
「違う! あれはラルの命を吸ってこの世に生を享けた悪魔だ!」
ヴィクトルの剣圧がジュードを後方へ弾き返した。そこに空かさずローエンがフォローに入り、レイピアでヴィクトルに斬りかかった。だがそれもヴィクトルは曲芸のように躱してしまう。
「娘の愛情を利用しただけでは飽き足らず、もう一人の娘は悪魔呼ばわりとは!」
「知った風な口を利くなッッ!!」
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