九幕 湖畔のコントラスト
2幕
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「人違いだろ。そんな、ローエンが殺されるなんて」
「間違いなものか! ドロッセル様が遺体を引き取ったんだぞ。以来、ドロッセル様はショックでお屋敷に引き篭もってしまわれて……」
「ローエンを殺した犯人は? 捕まっているのか?」
「いいや。今も誰の仕業か分かってない。分かってるのは、死体がエレンピオスのウプサーラって湖に浮かんでたことだけだ」
フェイの心臓がイヤな律で打った。
(湖の底の、人たち)
10年経った今でもはっきり覚えている。
この分史世界が「いつ」なのかも分からないのに、イヤな予感を止められない。あの人たちはまさか――
店主に追い払われ、広場の人々の視線を集めたこともあり、彼らは市場を抜けて風車前の通りまで退避した。
そこで、真偽を確かめるべく、この世界のローエンが殺害されたという現場に行ってみようとミラが提案した。
「ウプサーラ…みずうみ…」
歩きながら、フェイは、エルが首を傾げているのを見た。
「どうしたの? お姉ちゃん」
「ナァ〜ゥ?」
「んー…なーんかさっきから、ひっかかってるような…」
一度はカラハ・シャールを出ようとした一行だが、その前にシャール家の屋敷に寄って、タイムカプセルを掘り起こして時間軸の関係を確かめた。
タイムカプセルとやらを埋めた時、フェイはいなかったので、そばで待ちぼうけだったが。
一行はマクスバードを繋ぐシャウルーザ越溝橋を渡り、列車でエレンピオスのディールに向かった。
列車の中での座席割は、エレンピオス組とリーゼ・マクシア組できっかり分かれた。
「ジュードがつくりたいのつくれてたのに、ジュード、うれしそうじゃなかったね」
「そうだな。未来のこととはいえ、自分が死んで普及したなんて聞いたら、な……俺でも滅入るよ」
少し離れた座席を、フェイはこっそり見る。ぼんやりと車窓からの景色を見ているジュード。
シャウルーザ越溝橋を渡りながら、フェイたちは源霊匣を持つ多くのエレンピオス人を見た。
だが話を聞くに、源霊匣そのものの生産はクランスピア社が握っていて、さらにはジュードまで殺されていたという嫌な情報を聞くはめになった。
「もしかすると、源霊匣の普及にはジュードの命が必要かも、ってことだからな」
芸術家や発明家の作品は本人が死んでから脚光を浴びることがままあるとはいえ、それが他ならぬジュードとなると、フェイも心穏やかでいられなかった。
「死ぬって、ミラみたいになっちゃうこと、だよね」
「そう、だね――」
――何度悪夢に見ただろう。堕ちていく〈ミラ〉の、涙目の笑顔。あの時のフェイは遠目で、表情など視えるはずがなかったのに。夢に
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