彼と並び立つモノ
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眩しい早朝の日差しは背を照らし、黒馬に跨る彼の影を長く大きく伸ばし行く。
目を細め、遥か遠くを真っ直ぐに見やる彼の表情は凛々しく、隣で別の馬に跨る少女はその横顔を見つめて、頬を朱に淡く染め上げた。
自分の事を見てくれないのは分かっている。これから自分達が作り出す地獄をただ淡々と頭の中で積み上げ、己が行いを責めながら進む人だという事も知っている。
ほんの少し、彼女は甘えたい気分に取りつかれて、馬を寄せて近付いてみた。
身体を寄せて、四日に一度の夜のように顔をその暖かな胸に埋められたら……幼子のように素直に甘えられたなら、そんな些細な欲望を抱いて。けれども彼女はただ見つめるだけであった。
気付いていながらも男は無言、何も言わず、聞かず、遠くを見つめ続けるだけ。
一陣の強い風が吹き、真黒い外套がはためく様は翼を広げた黒い鳥のように見えた。
――私が近づいたから吹いた風であればいいのに、彼に翼を与えられるのが私であれば……もっと優しい何処かへと連れて行ってあげられるのに。
直ぐにふるふると頭を振るって彼女は個人の想いを頭から追い払う。
誰かに与えられた結果で満足するような男では無いのだと。望んだままに全てを奪ってから与える事を望む人、だから彼女は何も出来ない。ほんの少し、違う道に羽根を落として、選択肢に気付かせてあげられるだけ。
選ぶのは彼であり、進むのもまた彼。
黒き麒麟は大地を駆り、対を為す鳳凰は空から道を示す。
四霊の幻獣の名を冠する二人は、思惑も心情も交わる事は無く、されども同じ先を見つめ続ける。
「御大将、陣の設営完了しました。張飛隊への伝令も滞りなく」
筋骨隆々の見た目の通りに、野太い声で告げた副長の言葉に対してそのまま顎を引いて頷き、彼は目を細めて振り向く――途中で心配そうに見つめる雛里の気持ちに気付いて表情を綻ばせた。
大丈夫、そう言い聞かせるように。
お前にはホント敵わないな、と雛里はいつもの言葉が耳に響いた気がして、胸の内がじわりと温かくなった。
すぐにキリと表情を引き締めた秋斗は、いつもの飄々とした声では無く、厳しい冷たさを宿す声を紡ぐ。
「ご苦労。副長と雛里に後陣は任せる。敵先遣部隊の第一波は俺が連れて行く徐晃隊の四倍強、城で煮詰めていた予定よりも多いが……雛里のくれた策で大丈夫だろう。雛里の下す命には全て従え副長。じゃあ……行って来るよ」
最後に、ほんの少しだけいつもの優しい笑顔を雛里に向け、彼女が微笑み返したのを見てから彼は馬を進め、徐晃隊の待つ場所へと向かっていく。
その背は広いのにどこか小さくて、雛里の胸はきゅうと締め上げられる。
途端に悲痛な面持ちに変わった雛里を見て、副長は何も言わずに見送る彼女に対して感嘆の念が湧いた。
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