彼と並び立つモノ
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望の淵に立っていた。
――何故、私の思考が読まれた。油断していたのではなかったのか? 張飛はここにはいないはず。何故、ここにいるのだ。それに……黒麒麟はどこにいる?
彼女は先頭の部隊と共に陣の内部に踏み込んでいたが、そこに徐晃の兵は少数しかいなかった。それもほんの数十人だけ。全ての兵がにやにやと不敵に笑い、助けを呼ぶことも敵襲だと叫ぶ事もせずに彼女達を嘲っていた。殺そうと追ってもばらばらと逃げるだけで戦わず、笛の音が鳴り響いて漸くこれが罠だと気付けた。
膨大な情報を瞬時に叩きつけられた彼女は混乱の渦に呑まれてしまっている。もはや指揮官としての意味が無く、外に向かったとしても全てを治めきる事など出来はしない。
昼間の戦端、男の言った二つの言葉が頭を掠める。
従えば平穏を与えてやる。
臆病者。
逃げ出したくなる心と抗いたい心、さらには従えば助かるかもしれないという愚かな考えが浮かび、彼女の心に大きな迷いが生まれ、縛られた思考は判断の全てを鈍らせる。
罠だと気付いた時点で直ぐに逃げれば良かったのだ。それなのに彼女は陣内に残ってしまった。
決めかねて時間を浪費する中、陣内の天幕からは次々と火の手が上がり始めた。徐晃隊の数十名がばらばらと逃げるだけだったのは自陣に火をつける為だったのだと彼女も漸く理解した。
燃える炎は次々と柵へと広がっていき逃げ場を塞いでしまう。敵指揮官と兵の分断、ここまで周到に用意されていた罠。
空城計のアレンジ。それが雛里の選んだ策であった。ただし、敵を退却させるモノでは無く壊滅する為のモノ。警戒して硬直していたとしても、引き返して行ったとしても張飛隊の出現によって心理的にも物理的にも奇襲を掛けられるという二段構え。ここまで全ては鳳凰が盤上に描いた展開でしか無い。
混乱の渦中で恐怖に塗れる袁術軍の兵達は劉備軍の陣に火の手が上がったのを見てさらに迷い、戸惑う。何が起こっているのか、どうすればよいのか……迷う内、最後に残るのは自分達は死にたくないという純粋な想い。
彼らの内には一つの言葉が甦っていく。戦端で自分達に向かって放たれたその言葉は脳内で甘く響きだす。
赤く燃える炎が昼間のように明るく照らし出すそこに、多くの足音と共に来るのは全てを切り捨てんとする黒き麒麟の部隊。
陣の後方から迂回して来ていた徐晃隊の本隊は思考の迷路に嵌り続ける袁術軍の横っ面を易々と貫いた。
†
初戦の結果は大勝、全てが思う通りに進んだと言える。
朝日がまだ眩しい時間帯、私は少し離れた所に建てた簡易の陣にて今回の戦の事を考えていた。私の描いた通りに戦が進んだ事、そして……私達が作り出した地獄の事を。
烏合の衆と化した敵達は制圧するに容易く、彼が戦端にて楔を打ち込んだ事
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