彼と並び立つモノ
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――戦に向かって行く自分が慕う男を笑顔で送り出し、その背を見ても引き止めず、心配で心が張り裂けそうでも勝利を疑わずに待てるのかよ……もう幼女軍師様なんて呼べねぇわな。
副長は二人を長く見てきた。雛里が自身の主に向けている視線が熱の籠ったモノであることも知っている。まあ、徐晃隊の全てが知っている事実ではあるが。
それは一人の少女が甘く抱く恋心なのだと思っていた。憧憬の念を多大に含むモノなのだと勘違いしていた。
しかし今の雛里の姿は、少女では無く一人の大人の女の在り方。もはやこれは恋では無いのだと副長は理解した。
「鳳統様、我らは手足。御大将の命令はあなたに従え。大陸一の名軍師と黒麒麟の手足が組んだらどうなるかを敵に見せつけてやりましょうや」
副長は間違わない。
今、黒麒麟が求めているのは並び立つ鳳凰であるのだと。
だから大人として、そして部下としても、彼女の背を押す。女として待つ姿は見せた、ならば次は並び立つ軍師の姿を見せてやれ、と。
ゆっくりと副長を見上げる雛里の翡翠の瞳には煌々と冷たい輝きが燃え始める。それは軍師の冷徹な光。人の命を駒として扱う覚悟を秘めた本物の軍師だけが持てるモノ。
「ありがとうございます。では行きましょう。あの人の願いの為に、全てを操り、地獄を作りましょうか」
ゾクリと肌が泡立ち、副長は彼女の放つ冷たい声音に圧されるも、一つ大きく息を吸って気合を入れ直し、御意の声と共に目礼を返した。
雛里は腰に据えてあった黒い羽扇を取り出して柄をきゅっと握り締め、戦場を俯瞰し全てを読み切る鳳凰となる為に動き始めた。
平然と並ぶ白銀の鎧の群れは横並びに広がり、対面に並ぶは四分の一程度の新緑の部隊。
一つ、その中央にて黒に身を染めたモノがゆっくりと、だが力強く進んで行く。大きな体躯の、鞣した皮の鎧さえも黒で塗りつぶされた馬に跨る男。対面する敵兵達はその威風堂々たる姿を見てゴクリと生唾を呑み込む。
対して、白銀の群れからは一人の少女が進んで行くが、その少女の瞳には自軍が圧倒的な数であるにも関わらず少しばかりの怯えが見て取れた。
その少女は袁術軍の将の一人。その武は兵と比べれば比肩されるモノはいない。しかし目の前にいる男の噂、以前の連合時の呂布との戦いを見れば自身とは比べものにならないのだと理解しているが故に……多少の怯えの念を振り払えずにいる。
上司たる紀霊くらいでしか相対する事など出来ないだろう。だからこそ、数という兵法の基本、もしくは搦め手を以って全てを抑えるしかないのだ。幸い、張飛の隊は物資補給の為に城に戻ったとの報告を事前に聞いていた。黒麒麟一人ならば四倍の兵力には対抗出来ないだろう、と考えているが、それでも純粋に実力が上のモノに対しての怯えは出てしま
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