第八十八話 強くなる水その六
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「力も素早さもね」
「そのどちらもなの」
「これまで倍以上よくなった感じだよ」
「実際の生活にも影響しているの」
「身体を動かしているからだと思うよ」
訓練、そして実戦の双方でだ。
「だからだね」
「身体を動かしている分余計に」
「よくなっているね」
上城は一旦箸を置いて自分の右手の平を見つつ樹里に答えた。
「握力も違っていて」
「剣道は握力が必要よね」
「左手はね、右手はかえって握ったら駄目なんだ」
余計な力が加わって振りが遅くなるのだ、剣道では右手はあくまで添えるだけで左手で握り振るものなのだ。
「だから今はね」
「左手がなの」
「かなり握力が強くなってるよ」
以前と比べて遥かにだというのだ。
「自分でも驚く位に」
「じゃあ剣道も」
「強くなっているよ」
「そのことはよかったわね」
「うん、こちらもね」
このままだというのだ。
「もっと強くなりたいしね」
「けれど剣士の戦いと剣道はね」
「影響していても別だから」
それでだというのだ。
「弁えないとね」
「上城君は絶対に力に溺れないわね」
「そういう人を見てきたからね」
「あの暴力教師で」
「ある意味あの人に会ってよかったよ」
彼の目の前で中田により人を傷付ける邪剣を永遠に封じられた輩にだというのだ、人を傷付けるだけの剣道は邪剣に過ぎないのだ。
「ああはなりたくないから」
「反面教師ね」
「力を持っていてもね」
それでもだというのだ。
「その力に溺れて人を傷付ける人は醜いよ」
「そうよね、そんな人はね」
樹里もその教師を観ている、だからこそ頷けた。
「見ていてもね」
「自分がその暴力の対象にならなくても」
それでもだというのだ。
「近寄りたくないしね」
「存在してもよね」
「よくないよ」
「それじゃあ」
ここでだ、樹里はそうした輩の話を聞いてから彼の名前を出した。
「加藤さんは」
「あの人もそうかなっていうんだね」
「ええ、戦うことが好きなのよね」
「その為に生きているってね」
上城も応えて彼のことを述べる。
「あの人自身言っておられるけれど」
「それじゃあ」
「いや、確かにあの人は戦うことが好きだけれど」
「それでもなの?」
「暴力じゃないんだ」
加藤は戦いは好む、しかし暴力はというのだ。
「弱い相手には絶対にね」
「剣を向けないのね」
「弱い相手と戦っても」
そうしてもだというのだ。
「あの人は面白くないっていうから」
「じゃあ戦いは好きだけれど」
「暴力は振るわないんだ」
それはしないというのだ。
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