反董卓の章
第22話 「…………よっ、兄弟」
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どの天変地異。
まるで夢の中にいるような、そんな現実味のない場所に――
一人の男が立っていましたわ。
「………………」
その男の背後に噴き上げる炎の塊。
それによって見えない彼の顏。
けれど、彼が誰だか、誰もが判る。
「………………鬼」
そう。
赤銅色の肌のような盛り上がりを見せる、筋肉のような服。
噴き上げる炎が起こす風で、髪がまるで角のように視えた。
そしてその眼光だけが――――光って見える。
ガチガチガチガチガチ――
不規則な音が聴こえる。
目の前にいる猪々子さんから。
今にも崩れ落ちそうな斗詩さんから。
「……………………」
何故そんなに震え――そう言葉にしようとして、口が動かないことに気づきましたわ。
そう……わたくし自身。
わたくし自身の歯も、言葉の代わりに震えた音を出していたのですから。
「……袁紹」
「ヒィッ!?」
その言葉は今まで聞いたどんな声よりも、ゾッとした声色に満ちていましたわ。
正直、わたくしは自分の名を袁紹というのを忘れたいぐらいに。
「っ、っ、っ、ぁっ、ああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
突然、弾かれたように動き出した猪々子さんが、自身が持つ大剣でその鬼へと斬りかかろうとしましたわ。
わたくしにはそれを止めることも出来ません。
その姿すら、わたくしにはまるで夢物語のように見えているのですから。
でも――
「あああああああああああああああああああああ……………………え?」
振り上げ、振り下ろした猪々子さんの大剣。
確かに振り下ろされたはずの大剣は…………何の音もなく鬼の片手により止められていました。
そして『バギャッ!』という音と共に、片手で剣そのものを握りつぶしていますわ。
その光景に――猪々子さんは、その場で膝から崩れ落ちるようにへたり込んでいます。
(――殺される)
猪々子さんの次の瞬間の姿が、瞬時にわたくしの脳裏に浮かびました。
それは斗詩さんも同じだったのでしょう。
小さな悲鳴が斗詩さんの口から漏れています。
ですけど――
「――――――――」
「ヒィッ…………………………え?」
膝をついた猪々子さんが、呆けたような顔で鬼を見上げています。
今にも殺される、といった様子だった猪々子さんが……
そして猪々子さんの横をすり抜けるように、わたくしの元へと歩いてきます。
その様子に、わたくしも斗詩さんも身構えたのですが――
「「……え?」」
斗詩さんとわたくしの声が重なりました。
それほど、お互いにとってその姿は意外なものだった
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