第四章
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そしてだった、その駅の線路とホームのことも思い出してそのうえでだ、僕は娘に明るい笑顔で言ったのだった。
「今も線路を見て駅にいて幸せだよ」
「それだけで?」
「そう、それだけでもね」
幸せだと思っていた、本当に。
「お父さんは幸せなんだよ」
「そうなんだ、お父さんって」
娘は僕の言葉を聞いてきょとんとした顔で言った。
そのうえでだ、僕にこんなことも言った。
「何か変わってるね」
「変わってるかな」
「だって線路とか駅って何でもないじゃない」
娘は小さな黒い目を瞬かせて僕に言ってきた。
「そうした場所にいて幸せって」
「お父さんはそれでも幸せなんだよ」
「そうなの」
「お家にいてこうして彩乃ちゃんとお母さんと一緒にいてもだけれどね」
ここで娘の名前を呼んだ、僕とそっくりの目と髪の質に妻にそっくりの顔立ちを併せ持っている娘の名前を。
「それでもね」
「駅と線路を見てなんだ」
「お父さんは幸せなんだよ」
「じゃあお父さんは本当に駅や線路が好きなんだ」
「電車もね」
「そうなのね。私にはよくわからないけれど」
「お父さんにはそうなんだよ」
こう娘に話した、まだ子供の娘に。
やがて娘は成長し結婚した。結婚相手は僕とは違い運送会社の経理の人だった。職種は僕とは全然違っていた。
けれど孫、男の子が出来ると。まだ小さな孫を喋られる様になると一緒に電車に乗せたくなった。自分の好きな場所に。
するとだ、すっかり母親になっている妻の若い頃そっくりになっている娘は苦笑いで僕にこんなことを言った。
「お父さん相変わらずね」
「鉄道が好きだっていうんだね」
「ええ、本当にね」
こう僕に言うのだった。
「好きね」
「そうだよ、このことは変わらないよ」
「お父さんが子供の頃からよね」
「そうさ、今もだよ」
僕は娘に笑顔で言った、言えた。
「だからこの子にもね」
「鉄道を教えるのね」
「そうしていいかな」
「私は車派だけれどね」
だから運送会社の人と結婚した、いい子だったので問題なかったが。
「いいわ、じゃあ行ってらっしゃい」
「何時までも乗っていたいよ」
僕は自分でもわかった、この時とても嬉しい目になっていることに。
「電車にね」
「そうして線路の上を進んでいくのね」
「そうするよ、生きている限りね」
こう娘に答えて孫を連れて駅に向かった、定年間際だけれどまだ勤めている駅に。そうして電車が来るのを見て僕は孫に言った。
「乗ろうか」
孫はまだ喋ることが出来ない、けれど。
笑顔だった、その孫と一緒に電車に乗った。
そして帰ってからだ、僕は娘に言った。
「今度は環状線に乗ろうかな」
「そっちね」
「そこでずっとぐるぐる回ろうかな」
「いいんじゃない
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