第一章
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もてる男のバレンタイン
河原崎順一郎はもてる、それなりに顔がよく背もわりかし高い。しかも結構成績優秀で人格かなり円満とあっては女の子に人気がない筈がない、それでだった。
バレンタインになるとだ、彼の席の上は。
チョコレートがこれでもかと積まれた、全部で何十個あるかわからない。
女の子が入れ替わり立ち替わりで来てチョコレートをプレゼントしてくれる、男連中はその彼にやっかみ半分でこう言ってくる。
「おいおい、今年もだな」
「今年も随分貰ってるな」
「本当にな」
「羨ましいな」
「うん、本当に嬉しいよ」
順一郎自身も笑顔でこう言う。
「心がね」
「心っていうとか」
「女の子の気持ちがか」
「うん、嬉しいよ」
こう笑顔で言うのだった。
「だからね」
「そこで自慢しないんだな」
「そうなんだな」
「自慢って?」
少し天然な感じでだ、順一郎は友人達に問うた。
「何を?」
「だからチョコレートを貰った数をだよ」
「それをだよ」
「いや、そういうのはね」
その問いにだ、彼はきょとんとした顔になって返した。
「ないんじゃないかな」
「数じゃないっていうのかよ」
「そこは」
「気持ちじゃないの?」
こう問うのだった、友人達に。
「こういうのは」
「人の気持ちは自慢しない」
「そういうことか」
「うん、僕素直に嬉しいんだけれど」
女の子達のチョコレートに入っている気持ちを貰ってちうのだ。
「それだけだけれど」
「そうなのか、だからか」
「嬉しいんだな」
「うん、そうだよ」
こう言うのだった。
「僕はね」
「そうか、けれどな」
「本当にチョコの数が凄いな」
「女の子何十人から貰ってるんだ」
「相当に多いな」
本人の数を聞いたうえでだ、彼等はあらためてそのチョコレートの数を見る。文字通りうず高くこれでもかと積まれている。
山になっているそれを見てだ、彼等はここで思った。
「うちの学校で一番多いよな、貰った数」
「というか桁が違うだろ」
「何でこんなに貰ってるんだろうな」
「確かに結構顔がよくて背もあってな」
「頭もいいけれどな」
彼の長所がここで話される。
「けれど天然なところ多くてな」
「スポーツはな」
そちらはだった。
「あまり得意じゃないしな」
「そうそう、運動は苦手なんだよあいつ」
「鈍臭いところがあってな」
「それと抜けてるからな、結構」
「もの落とすこと多いな」
「もの忘れも結構あって」
実はこうした欠点も知られている彼だった。
「意外とあてにならないところがあって」
「やれやれってなったりするよな」
「結構欠点もあるんだよな」
完璧な人間ではないというのだ、順一郎もまた。
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