第一物語・後半-日来独立編-
第六十六章 強くあるために《2》
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」
腹の底から出した言葉は、遠くにいる奏鳴に確かに届いた。
空気を圧し、言葉を飛ばしてきた。
天魔によって生まれた一本の腕が、竜神ではなく直接奏鳴を襲う。
セーランは動かない。行動する前に奏鳴が言葉を先に出したからだ。
「嫌だっ!」
短い、子どものような否定。
「やっと、やっと苦しみから解放されたんだ。ここから私は新たに始まっていく。進んでいける!」
長く苦しんだ日々。解き放たれたのだ、苦しみから。
奏鳴はもう立ち止まらない。進んでいくと、そう決めた。
悲しむことではなく、これからは幸福を得ることで償うと。
「だからお別れだ。亡き家族から、黄森からも――!」
「キサマアアアアアア!!」
冷たく、奏鳴の元に迫る腕が割れた。
腕の後方から竜神がその前足で、まるで空気を掴むように軽く粉砕したのだ。
それに央信は驚きを隠せなかった。
天魔によって出来た腕をいとも簡単に壊したということは、例え天魔を相手にしたとしても同じことが出来るということだ。
つまり、今の竜神にとって天魔とは空気と同格の軽い存在でしかない。
「悪いが私は生きねばならない。生きて世界を周り、今の世界を知るために」
「幾らなんでも勝手過ぎるぞ!」
「ならば私を一方的に殺すのも勝手過ぎというものだ。どれ程の力を持っていようと、身勝手に物事を進めていいわけがない」
「調子に乗るなよ、この人殺しが」
「なんとでも言ってくれ。それで気が収まるのならな」
劣勢に追い込まれる央信。
天魔がこうもあっさりとやられる理由。央信本人も理解しているが、原因が自分にあるということを認めたくなかった。
自分が弱いから、比例して天魔も弱くなる。
それは宿り主とて同じだ。
しかし、央信が相手にしている宿り主は神人族。神の血を受け継ぐ者だ。
人族である央信以上に神との繋がりは強く、必然と央信よりも強くなる。
奏鳴が竜神の正式な宿り主となった時点で既に、どちらに軍配が上がるかは決まっていた。
決着を付けるぞ。
この戦いに終止符を付けるため、静かに奏鳴は動いた。
呼吸を整え、忙しく脈打つ心臓と身体の緊張を解す。
央信の最後の抗いは、たった一回の、奏鳴が竜神に指示を出した時と同時に終わった。
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