本編 第一部
三章 「戦火の暗殺者」
第十七話「戦前の剣舞」
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第一武道場――
学校の階段をおり、第一武道場に足を運ぶ。
そこでは、伊佐と友恵という伊佐の友達が試合をしていた。おたがい、かなり緊迫した接戦のようだ。有効打はまだないらしい。
伊佐は、基本に忠実に正眼に構え、静かに気を張り詰めてまるですべての攻撃を予測しているようだ。なんだか伊佐がひとまわり大きく感じる。
たいして友恵は片手上段に構え、気合というか凛としたぴしっと決まった隙のなさを見せる。しかし構えのせいかどこからでも打てそうな気がする。だが今、この二人の間では目に見えない激しい戦いが広がっている。彼女らは気で相手を押し合い、剣の間合いで激しく自分の陣地を取り合っている。
戦いの最初は、自分を有利な位置にすること。この平らな床では、それは相手と己の位置関係にのみ、決まる。相手が引けば、自分が出て、相手が押すなら自分はいなす。
分かる、伊佐は剣というより気で友恵に威圧をかけている。伊佐が一歩すすめば友恵も一歩さがる。しかし気で多少競り負けながらも確実に片手上段という異常な構えで友恵は彼女の心を見定めづらくしている。
友恵の剣は自分の人格そのものを一つの剣にしている、彼女をちょっと天然が入っているといった細川さんはこれを予想してたのか真面目さと言葉に表せない一瞬何も考えてないんじゃないかという妙な思考にさらされる絶妙な心に裏打ちされた非常に読まれにくい剣なのだ。
動きがよめないので伊佐の威圧は効いているのか分からないし、行動に迷いがないから一足飛びに一瞬で相手に詰め寄ってそのままだーんと体当たりのような一打を打ってくるだろう。一足で詰め寄ると同時の面うち、それもみかけによらないとてつもない神速の剣の使い手。そう藤沢は感じ取った。並みの打ち込みならパーンと竹刀ごと持っていかれてそくざに面を打たれる。
伊佐は筋力がある。つまりもともと力が強い。
だが友恵はそうではない筋力はやはり男子に劣るのに体全体から練り上げられた技が友恵の剣を神速の速さでなおかつ強い剣に引き上げている。
両者の打突に込める気合い質の違い。友恵の剣には激しい気が炎のように立ち上ってそれが自分を前へとぐんと進ませる。気の通った竹刀は鉄の剣のように強く思わせる。
伊佐はなにか、ひたすら巨大に膨れ上がっていく。なにか時を経るごとに気の質量がどんどん倍化しているような感じだ。
友恵が感じている伊佐の巨大さは自分がものすごい広い海の中に引きずり込まれはるか遠くからかすかに伊佐の気を感じるという感覚だ。そして海の広さはどんどんどんどん広まっていて伊佐の気を追えなくなっていくようだ。だが一度彼女が海の広さから顔を出せば、一瞬でその広さを越えて伊佐は打ち込んでくるだろう。
だから友恵は炎をさらに燃やしてあたりを赤く照らし出す。海の無限の広さを照ら
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