第六章
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この時マウンドにいたのは阿波野秀幸。かって近鉄のエースとして活躍した男であり今は横浜の貴重な中継ぎであった。
横浜のリレーを考えると次はその五十嵐英樹、通称ヒゲ魔神だった。
だが権藤は彼の名を言わなかった。ここで何と切り札を投入してきたのだ。
「ピッチャー、佐々木」
権藤は彼を調整させる意味でもマウンドに投入したのだ。
リリーフカーに乗り姿を現わす佐々木。横浜の観客達はそれを見て歓声を送った。
佐々木の球は思ったより速かった。だがやはり風邪明けである。制球が定まらない。
四球を出し二死一、二塁。忽ち窮地に追い込まれる。
ここで西武は得意の機動戦術に出た。盗塁を仕掛け調子の良くない佐々木を揺さぶろうというのだ。
だがそれは失敗した。三塁を狙った高木が谷繁により刺されてしまったのだ。
その裏西武は中継ぎの柱の一人デニーをマウンドに送った。
「横浜のお客さんにもサービスしとかなくちゃな」
東尾はニンマリと笑って言った。デニーはかって横浜にいた男である。その長身と整った顔立ちにより横浜時代より人気は高かった。
横浜の観客達からも歓声が起こる。鈴木健のエラーにより失点を許したが満足のいく投球であった。彼は横浜のファン達にも温かく迎えられながらベンチに戻った。
九回は佐々木が三者凡退で締めくくった。横浜にとっては幸先よい勝利だった。だが西武にとっては嫌な幕開けとなった。
「石井さんのバントとスチールで自分を見失ってしまいましたね。調子が悪かったので余計に気になったかも知れません」
試合後西口は記者達に対して唇を噛んで言った。
「全てが悪かったな。ゲームになっていなかったよ」
司令塔である伊東も憮然として語った。西武のベンチは沈滞していた。
逆に勝った横浜は上機嫌だった。石井は記者達に対して言った。
「何度も牽制球を出してくれましたからね。かえってタイミングを掴めましたよ」
その言葉が全てだった。西武は半ば自ら敗北を招いてしまった。
試合後東尾はホテルで呟いた。
「この一敗は大きいな・・・・・・」
ただの一敗ではなかった。両チームの流れを決定付けるような西武にとって後味の悪い一敗であった。
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