暁 〜小説投稿サイト〜
問題児と最強のデビルハンターが異世界からやってくるそうですよ?
Mission6・@ ~鬼の森~
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るようなくだらない内容だ。
 ずっとこんなものを聞かされていると、うんざりしてどこか音のない場所に行きたくなるような、知性の感じられぬものばかり。

「少し待て弟よ。言葉がおかしい」
「おかしい? どこがおかしい?」
「おそらく確実に、とは言わぬ」
「では何というのだ兄者?」
「どちらかしか言わぬのだ、弟よ」
「ほう。なら、『どちらか』客だ」
「そういう意味ではないぞ弟よ」

 いつまでも、平坦で感情のない二つの声。
 だがそれは、ガルドを恐怖させるには十分なものだった。
 ガルドは知らない。ただ声を聞くだけで、こんなにも自分を恐れさせる闇の存在を。
 一言一言聞くたびに、彼の中にある原始的な恐怖が掘り起こされ、彼の心は大きく揺さぶられていく。
 彼は感じていた。
 そいつらと自分の間にある、圧倒的な力の差を。
 自分がシマウマなら、こいつらは虎だ。
 こちらは逃げることしかできず、一度つかまってしまえばもう助からない。
 その研ぎ澄まされた爪で己の肉は引き裂かれ。己の牙で己の喉に噛みつかれ。生きながら自分の血肉は貪られることとなるだろう。
 その虎の姿が見えなくとも。その爪と牙を見なくとも。ただの声だけで、それが確信できるのだ。

「『どちらか』ではない。『おそらく』か『確実に』か。どちらか片方だけを言うのだ」
「なぜだ兄者?」
「おそらく、と確実に、を同時に言っては、意味が食い違ってしまうだろう?」
「ふむ。では兄者、この場合どちらが正しいのだ?」
「ううむ、わからん」
「ほう。『わからんが』客だ、が正しいのか」
「いや、それはまた違うぞ弟よ」

 そんな得体の知れないものが、自分のすぐ近くにいるのだ。
 畏怖せずにはいられない。恐怖せずにはいられない。
 今すぐにでも逃げたいのに、どこへ行ってもこいつらはついてくる。
 逃げられない。もう、自分は捕まってしまったのだ。

「グルルルルルルル……!!」

 いつだ?
 いつ、こいつらは襲い掛かってくる?
 いつ自分は己の身を引き裂かれるのだ?
 いつ自分の喉に牙が食い込まれるのだ?
 いつ、自分は喰われるのだ?
 いつ、いつ、いつ、いつ?

「また違うのか? いったいなんと言えばいいというのだ兄者」
「それはまた確実性によるぞ弟よ。確信をもって言えるなら確実に、曖昧ならばおそらく、だ」
「確信? 曖昧? なんだそれは?」
「確信や曖昧というものは――」

 怖い。
 怖くて、怖くてたまらない。
 こんなにもくだらない会話しかしない、たった二つの存在が。
 はるか昔、森の中で燃え盛る炎を見た時よりも深い恐怖を自分に与えてくる。
 音のなくなった、森の中で。
 何時でもどこでも聞こえてくるこの声が。

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