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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第52話 「皇太子殿下の切り札」
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「帝国……いや、あの皇太子は自由惑星同盟など欲しくはないというのか? 大丈夫か、お前?」

 怒りを通り越して、哀れむような口調でホーランド少将が、フォーク大佐を見つめながら言う。
 視線が伏せられぎみだ。
 おかしくなったのでは? という疑問すら湧いてきた。
 だが、フォーク大佐は、そんな視線を気にしたような様子を見せずに、話し出す。

「帝国はフェザーンを手に入れている。フェザーンに買い取られた国債の額。それらは莫大なものだ。借款期限が過ぎているものが大半だ。それを全て返済しろと迫られたらどうだ?」
「そんなものは……」
「いかに戦争しているとはいえ、踏み倒せるか? そんな事をすれば二度と貸してくれなくなるぞ」
「そ、それは……」

 ホーランド少将の口調が弱くなった。
 経済危機。
 その言葉が脳裏に浮かぶ。
 部屋の中にいる我々も、考え込んでしまった。

「しかもフェザーンの通貨だ。返済はほぼ不可能。となれば、頭を下げて同盟の通貨で返済しなければならなくなる。借金を返済しきれるだけの額だ。同盟内はハイパーインフレどころの話じゃないぞ。しかもその時には、フェザーン資本も撤退するだろう。同盟の経済は壊滅状態になる」

 ぞくっと背筋に冷たいものが走り抜けた。
 いつでも同盟を壊滅させる事ができるのだ、あの皇太子は。武力衝突も無しに……。

「そうしておいて兵を動かす。混乱しきった同盟に対処し切れるのか?」
「無理だろう」

 思わず呟いた言葉に、フォーク大佐がこちらに視線を向け頷いた。

「治安維持に軍の力は必要だ。いったいどれだけ動員できるものか……。その上、帝国は一〇個艦隊以上は動員してくるはずだ。一気に終わらせるためにな」

 帝国の正規艦隊が大群を成して、同盟に攻め込んでくる。
 その光景を想像する。体が震えた。
 悪夢だ。
 一気にハイネセンまで進軍される。
 そして降伏か……。
 あっという間に自由惑星同盟は消滅する。
 あの皇太子、こんな切り札を持っていたのか。余裕があったはずだ。

「これが最悪のシナリオだ。それを防ぐために、軍の行動は慎重を期さねばならん」

 フォーク大佐が部屋の中をぐるりと見回しながら話す。
 そして再び、ホーランド少将に視線を合わせ、

「なぜ、それが解らないんだっ!!」

 と叫んだ。
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