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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第52話 「皇太子殿下の切り札」
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。知ってしまったいま、痛切にそう思う。
 それから話が公共事業になる。

「公共事業もねー。熊しか通らない道を作っても意味は……」
「あのなー。結果的に野生動物しか通らなくなっただけだ。計画が立てられたときには、人が住んでいた。それが不便だったから人がいなくなったんだ。経済対策としての公共事業にはな。単一の理由しかないわけじゃないぞ」
「ふ〜む」
「人間不便なところより、便利なところの方が良いと思うのは、当然だ。インフラを整えて、便利にしていく。企業誘致のみだけじゃなくて、人口流出を防ぐためにも必要なんだよ。ブラッケにも言ったがな、オーディンで橋や道路が必要かと聞けば、要らないと答える者も多いだろう。しかし辺境では、あって当たり前と思えるものもないのが現状だ。その結果、辺境から人が減って、オーディンには人が増える」
「う〜ん」
「となると辺境では、活性化したくても人口そのものが足りなくなる。それを良しとする訳にはいかないだろう?」
「確かにそうですな。やはり頭が痛くなりますな」
「だから頭抱えてるんじゃねえか」

 皇太子殿下が憂鬱そうに笑みを浮かべる。
 ため息が吐きたい気分だ。

「……マズローの自己実現理論」

 ぼそっと呟かれる。
 帝国の格差問題ですか?

「ああ、あれですか?」
「世の中、あの通りに回ってるなんて思っちゃいないが、まあ目安だな」
「そうですね」
「治安は何とかなる。単純労働だが、仕事もできてきた。医療問題は例の劣悪遺伝子排除法を廃法したときに、筋道をつけておいた。教育問題はクロプシュトックに押し付けてやろう」
「千里の道も一歩からです」
「違いない」

 帝国を背負うというのは、こういう事なのですな。
 こう言ってはなんですが、皇族に生まれなくて、良かったとつくづく思います。

 ■自由惑星同盟 統帥作戦本部 アレックス・キャゼルヌ■

 作戦本部の会議室。その一角で、フォーク大佐とホーランド少将がにらみ合っていた。
 短絡的な戦争主義では、皇太子に勝てない。
 そう主張している。

「そもそもあの皇太子が臆病などと、いったいどこから聞きかじってきたんだっ!!」

 ばんっと両手を机に叩きつけ、フォーク大佐が言う。
 目はホーランド少将から外さない。
 睨み付ける視線がいっそう強くなった。

「ではなぜ、和平交渉をしないんだ?」

 せせら笑うホーランド少将に対し、フォーク大佐は一言呟く。

「欲しくないからだ」

 自由惑星同盟など欲しくないからだ。と叫ぶように言った。
 その言葉に部屋の中にいた全員の視線が、フォーク大佐に向けられた。
 誰もが呆気に取られた表情を浮かべる。
 いったい何が言いたいんだと、言いたげな表情だった。
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