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マウンドの将
第三章
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そこに台風がやって来た。
「こればかりはどうしようもないな」
 試合は当然流れた。権藤は記者達に対して言った。
「ゆっくりやttらいいさ。もう雨には慣れているよ」
 横浜も西武のこのシーズンは雨に悩まされた。
「今日本で真剣勝負をやっているのはうちと西武だけだしな」
 その口調には余裕があった。だが内心では安堵していた。
(恵みの雨だな)
 そう思わざるをえなかった。それは何故か。
 当時の横浜の切り札は二つあった。止まることなく連打を浴びせるマシンガン打線と最後を締めくくる絶対的な守護神佐々木。だがその佐々木が風邪で倒れていたのだ。
「佐々木の調子はどうだ」
 権藤はスタッフの一人に問うた。
「いいとは言えませんね」
 彼は首を横に振って言った。
「そうか」
 権藤はその顔を少し曇らせた。一時佐々木は点滴を打つような状態であったのだ。
「今は少しでも時間が欲しいな」
「はい」
 権藤は雨が降り注ぐ空を見た。そして佐々木を調整する時間を少しでも欲していた。
 それは西武も同じであった。エースの西口が風邪を引き体調が思わしくなかったのだ。
「おい、頼むぞ」
 東尾はそんな彼を元気付けるべくハッパをかけた。
「ビースは幾らでもいる。しかしエースは御前しかおらん。いけるところまで頼むぞ」
「任せて下さい」
 責任感の強い男である。監督の気持ちが痛い程よくわかった。二人は同じ和歌山出身ということもありウマが合ったのだ。
 彼は焦っていた。何とか試合までにコンディションを整えておきたかったのだ。
「あの時は絶好調でも負けたのだから・・・・・・」
 ふと彼の脳裏に昨年の忌まわしい記憶が甦った。
 九七年日本シリーズ。彼はこの時も第一戦に先発で登板した。相手は奇しくも野村と同じ左腕、剛速球で鳴る石井一久であった。
 試合は投手戦になった。西口は飛ばした。七回までヤクルト打線に得点を許さなかった。
 だがそれは石井も同じであった。石井の荒れ狂う剛球とそれをリードする古田の知略を攻略することが出来ず試合は膠着していた。西武は頼みの機動力も古田の強肩と智謀の前に発揮できずにいた。
 そして八回。バッターボックスにヤクルトの助っ人ジム=テータムが向かう。

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