SAO編
序章 はじまりの街にて
5.葛藤の末に
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ネ、ネリー!」
「ぐ……だ、大丈夫だって」
後ろから聞こえるレイアの心配する声に応える。
よかった、ちゃんと守れた。漫画で見た防御を真似してみたけど結構上手くいったみたいだ。
痛みというより、痺れたような感覚が体に残ってるけど。
「くっそー! こっち来ーいッスよー!」
剣をブンブンと振り回してイノシシの気を引こうとしているチマが見える。
「ネ、ネリー……え、HPがっ……」
「……え?」
目を見開いて指をさすレイアの声に、自分のHPを確認する。
「…………あ」
見ると、あたしのHPは一割ほど減っていた。
一割。あと九回攻撃を受けたら、あたしは――死ぬかもしれない。
あたしは再び体が強張って動けなくなっていくのを感じた。
「ネリー! そっち行ったッスよ!」
チマの叫ぶ声が聞こえるが、金縛りにあったようにあたしの体は動かない。
一度、自分の死を意識してしまったら、もう駄目だ。
多分、レイアは早くにこういう状態になってしまったんだろうな。
イノシシの姿が段々大きくなって来るのを見ながら、あたしはそんなことを考えていた。
「ネ――奈緒っ!!」
後ろから美緒の叫び声が聞こえる。
――駄目だよ美緒。SAOではあたしはルネリー……でしょ?
視界いっぱいにイノシシが見える。防御はもう間に合わな――
「キャッ…………え?」
ドゴッ!という打撃音が目の前から聞こえた。
でもそれは、イノシシがあたしにぶつかった音ではなかった。
あたしはとっさに瞑った目を、ゆっくりと開ける。
「……あ」
あたしの目に映ったのは《背中》だった。その背中を見るのは、これで三度目。
一度目は、中央広場であたしが追いかけたとき。二度目は、別れの言葉も無くあたしたちから去っていったとき。
「……あっ……あぁ……」
《その人》は、いつ見ても変わることの無いその横顔で――あたしの前で槍を構えていた。
◆
――仕方ない。
そう、思うことにした。
何故この子たちがこんな時間に街の外へ出ていたのかは解らないが、それでも解ることはある。
この子たちは今、命の危機に瀕していること。
そして、俺はそれを助ける力を持っていることだ。
これで助けないことを選択するのは、まず人間としてありえない。俺はそう思う。
助けた側の責任。助けた後のことは――助けた後に考える。
そういう結論に至った。
「――っ」
槍が得意としている攻撃は、その長いリーチを活かした《刺突》だ。だがそれは、一番強力という意味ではない。
槍での一番強力な攻撃、それは《薙ぎ払い》や《振り下ろし》だ。
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