暁 〜小説投稿サイト〜
マウンドの将
第二章
[2/2]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
親しいその記者はある程度はわかっていたが芝居っ気を好む彼に合わせて尋ねた。
「ピッチャーだよ」
 彼はニンマリと笑ってそう言った。
「野球はな、まずはピッチャーだ」
 ピッチャー出身の彼だからこそ言う言葉であった。
「ピッチャーがチームの柱だ、これがしっかりしていないチームは最後には負ける」
「はあ」
 その記者はある程度演技を入れて頷いた。
「まあ見ていてくれよ。最後にこのペナントを制するのが何処かな」
「監督、自信あるみたいですね」
「当たり前だよ、自信がなくてこんなこと言うわきゃないだろ」
 これが東尾であった。彼は常に自信がその胸の中に満ちていた。
「うちは十二球団でも一番の投手陣を持っている。これで去年の勝った。そして」
 彼は不敵に笑った。
「今年もな」
 そしてその言葉を残して監督室をあとにした。彼は戦場へと向かった。
 西武は日本ハムとの死闘を制した。頼みの綱の打線が停滞した日本ハムは西武投手陣の敵ではなかった。こうして西武は二年連続でペナントを制したのであった。
「今年のシリーズは楽しくなりそうだな」
 ペナントを制した後の東尾は上機嫌であった。彼は個人的にも親しく互いに認め合う仲の権藤と対決できることが何よりも嬉しかったのである。そこには昨年の野村へのあてつけもあった。
「そういえば今年ははじめてらしいな」
 対する権藤も機嫌は悪くなかった。彼は今回のシリーズが史上初の投手出身の監督同士の対決であることを聞いていたのだ。
「まあ私は内野もやっていたことがあるのだがね」
 彼はそう言って苦笑した。しかし権藤といえば誰もがあの連投を忘れはしない。
「ここは正々堂々といきたいな」
 これに対し野村も森も嘲笑を禁じえなかった。
「何を言うとるんじゃ、野球というのは騙し合いじゃ」
「作戦こそが勝負を決する。それがわからなくして野球は成り立たない」
 何処までも彼等は捕手であった。投手の言う言葉はやはりそりが合わない。
「言いたい奴には言わせておけばいいんだよ」
 東尾もそう言った。彼もまた野村や森とは現役時代からの不和である。
「俺は俺の野球がある。そして勝ってやるさ」
 彼はそう言うと車に乗った。行く先は横浜であった。
 横浜スタジアムの隣には中華街がある。横浜で最も有名な観光名所の一つでもあり行き交う者は皆中国の品物を愛で料理に舌づつみを打つ。そこに東尾はやって来た。
「ようこそ」
 店に入るとそこには権藤もいた。彼は微笑んで手を差し出した。
「どうも」
 東尾も微笑んで手を出した。そして握手をした。
「君達も来てくれよ」
 そして二人は周りにいた記者達を呼んだ。そして食事会場に誘った。

[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ