第三話
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ある「鼠と十分話をすれば、千コル分のネタを抜かれているぞ、気をつけろ」の通りだ。
しかしその長い付き合いの彼女の「仕事ぶり」を見るのは、思えばそうそうない機会だった(後になって思い返せばこの尾行はその貴重な機会だった)。
十分話せば、千コル分のネタが抜かれる。しかしそれでも、彼女と十分話していたくなる……いや、「話した方が得だ」と相手に思わせている。その境地に達するのに必要な努力と苦労は、俺のようなソロの勝手者には到底わからないものなのだろう。ありとあらゆる店やギルドを渡り歩く彼女の姿には、そんな苦労の片鱗をうかがわせるものだった(もちろんその時の俺は知る由もなかったが)。
そして、そんな彼女の交流網。
その広い網には当然、彼女の『同業者』もおり。
そこには、居てほしくない俺の知り合いがいたりもしちゃうのである。
◆
ふざけんな! と叫びださなかったことを、俺は自分をほめてやりたい。
「あれって、シドさんだよね……」
「ああ、そうだな」
「え? な、なんか怒ってるの?」
アスナの問いかけに答える自分の声が、若干震えている自覚はあった。
大通りからひと気の少ない脇道に駆け込んだアルゴ。そこで待っていたのは、ひとりの……俺のよく知っている男だった。奇妙なほど細長い手足に、アルゴよりもはるかに高い身長。黒を基調としたその服装に一切の武器を持たない特徴的な外見は、見間違うはずがあるまい。
(なんでてめーがここにいるんだよ……!)
俺にあのモザイクとかいう変態を、ひいてはこの仕事を斡旋した男。
情報屋のシドだった。
「ね、ねえ、キリト君……? さっきからなんか表情が怖いんだけど……」
「……いや、なんでもない。ちょっと考え事を」
どうやったらあの男に呪いをかけてやれるか、とかな……と心の中で続けたが、口には出さない。
断っておくが、べつにシド……クエスト専門の情報屋が、なんでも情報屋のアルゴと接触することが悪いとは言わない。むしろ多くの情報を共有してそれを全プレイヤーへと還元してもらうことは、SAO攻略とプレイヤーの生存率向上に不可欠であり、どんどん勧められることである。
だが、よりにもよってこのタイミングはないだろう……というより。
(お前がアルゴと会うなら、お前が盗撮しやがれよ、なんで俺に!?)
あの男も情報屋とはいえ、それなりの実力者である。その上それなりに《隠蔽》のスキルを上げている上に、能力は敏捷特化型。尾行も盗撮もこいつのほうがずっと向いているだろう。いちおうなんとかというギルドにも入っていたが、もっぱら活動はソロなので、汚名をかぶってもさほど困るまい。
……とまあ、どこまでも適任者なのだ
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