第十三章
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「横浜ベイスターズ、ピッチャーの交代をお知らせします」
ウグイス嬢の声がグラウンドに響き渡る。
「ピッチャー阿波野にかわりまして」
これはもう規定路線であった。リリーフカーが出るドアが開いた。
「佐々木。背番号二二」
「おおーーーーーーーーっ!」
場内がどよめきに包まれた。皆彼が登板する時を待っていたのだ。
大魔神と謳われた横浜の誇る最強の守護神がマウンドに登った。やはり最後を締めくくるのは彼しかいなかった。
「終わったか・・・・・・」
最早日本一を確信して歓喜に包まれる横浜ファンとは正反対に西武ファンは全てが終わったと思った。最早佐々木を打てるとは誰も思わなかった。
だがいきなり先頭打者大塚が打った。ここでレフト鈴木尚典の目に照明が入った。
打球は後ろに逸れた。これで大塚は三塁に進んだ。
「おい、もしかして・・・・・・」
西武側のスタンドで誰かが言った。
「それはない」
しかし周りの者がそれを否定した。
「相手は佐々木だぞ。あんなの打てる筈がない」
リーグは違うといっても彼の存在は誰もが知っていた。その豪球とフォークは到底打てるものではなかった。
それは当たるかと思われた。代打ペンパートンはあえなく三振した。だが佐々木はやはり風邪の影響か本調子ではないようだ。次の代打マルティネスを歩かせてしまう。そしてこのシリーズにおいて西武をここまで引っ張ってきた中嶋がボックスに入った。
「こいつの運にかけるか」
東尾は呟いた。だが打球はサードゴロだった。万事休すか。
しかし運命の女神というのはやはり気紛れであった。もう少し遊びたいと思ったのかここで名手進藤がセカンドへフィルダーチョイスを出してしまった。その間に三塁ランナー大塚が入り一点、そしてなおもチャンスが続く。
「おい、もしかして・・・・・・」
先程期待の声を漏らした観客が再び言った。今度は周りの者も頷いた。
「ああ、ひょっとして・・・・・・」
ここで西口の打順である。東尾は迷うことなく代打を送った。
金村である。ここは彼のバットに全てを賭けた。
「全部思い切って振れ!」
東尾はそう言うだけであった。そして金村はそれに頷いた。
「いけ、ここでサヨナラだ!」
西武のファンは彼に最後の望みをかけた。金村はそれに対し頷いてバッターボックスに入った。
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