第三十五話 暗雲
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親衛軍の兵士は今の謁見の間にはいなかった。
「私ひとりが消えて済む問題ではありません。元老院はソリドール家の存在自体を憎んでいます」
ヴェインはここで一旦言葉を区切り、少し力をこめて続けた。
「奴らを抑える口実が必要です」
ヴェインの言葉を聞いて、グラミスは玉座から立ち上がった。
「必要だと? そうか、必要か―――。そちの決まり文句だな。血を流す決断に毛ほどのためらいもない」
どかか責めるような口調でそう言いながらグラミスは窓際へよった。
グラミスが責めているのはヴェインか、それともヴェインをそうしてしまった己自身にか・・・
そう言ったグラミス自身にもわっていなかった。
「ソリドールの剣つるぎに迷いは不要。その剣を鍛え上げたのは陛下ご自身です」
「復讐のつもりか」
グラミスはそう呟いた。
グラミスは11年前、ヴェインに兄二人を処断しろと命じたことを恨んでいるのではと思っていた。
あの日以来ヴェインが職務で私情をあらわにしたことが無い。
どのような凄惨な任務でも無表情で成し遂げてきた。
グラミスはいつかヴェインが自分を殺すかもしれないと心の奥底でずっと思っていたのだ。
だが、ヴェインは声を乱さずに話す。
「必要だと申し上げました」
ヴェインの言葉にグラミスは僅かに唸った。
「今やらねば、もうひとりの未来も奪われます」
ヴェインの言うことは常に理がある。
確かにこのままでは帝国はソリドール家という旗印を失う。
現皇帝であるグラミスは老い先短く、ヴェインは第8艦隊の件で失脚寸前。
ラーサーは元老院の傀儡として皇帝になるか・・・
否、ラーサーが傀儡で終わるような人物ではない。
だが、まだ幼いラーサーが元老院をどうにかできるとは思えない。
となれば元老院によって幽閉されるか殺されるかのどちらかだ。
「白い手の者に代わり、その手を汚すか」
「すでに血に染まっています。ならば最後まで私が」
ヴェインの返答を聞き、グラミスは窓から帝都を眺める。
己の一生を捧げ、栄えさせてきたアルケイディア帝国の首都。
この繁栄を手に入れる為に、いったいいくつの国々を滅ぼしてきたのだろう?
いったいどれだけ莫大な量の血を大地に流させたのだろう?
グラミスは少し目を瞑る。
「すべてはソリドールのために―――か」
グラミスはそう呟き、黙った。
なに、この国の為に血を流すことなどまだ自分が幼い時から覚悟していたことではないか。
そう、喩え血を流すのが自分であったとしても―――
「エイジスとラナード卿をここに呼べい。それとヴェイン、グレゴロス議長に明日の朝に謁見の間にくるよう伝えよ」
「ハッ」
グラミスの命令にヴェインは臣下の礼をとり
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