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役のままに
第一章
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                 役のままに
 オリバー=グレイブの仕事は役者だ、舞台に出ることが多くとりわけシェークスピアの諸役を得意としている。
 人種的にもアフリカ系で尚且つ背が高く逞しい、心情表現や細かい仕草も得意である。
 それでだ、彼が得意とするシェークスピアの劇の中でもとりわけ得意なものは。
「やっぱり君はオセローだよ」
「それだな」
 友人でもある演出家のジョン=クレーシーに応える。
「よく言われるよ」
「そうだろう、外見もそうだし」
「人種が特にな」
 このことは笑って言う、オセローはムーア人即ち黒人だからアフリカ系の彼にはまさにうってつけの外見なのだ。
「そうなるな」
「そう、君はオセローを演じる為に生まれてきたんだよ」
「嬉しいね、俺にしてもな」
「オセローは好きだね」
「いい役だ」
 こう言うのだった、彼自身。
「作品自体もいいが」
「ムーア人の奴隷から将軍にまでなり美しい妻を娶るがね」
「その妻を唆された嫉妬によって殺してしまう」
「愚かだけれど悲しい役だね」
「シェークスピアはその人物が愚かであればあるだけ悲劇に陥ってしまう」
 グレイブは言う、シェークスピアの作品の特徴の一つだ。
「その悲劇から逃れることは出来ない」
「リア王もハムレットもマクベスも」
「そしてオセローも」
 シェークスピアの悲劇にいてはだ。
「愚かさ故の悲劇に陥り落ちていく」
「それは破滅に至るまで続く」
「人間は愚かだ、けれど誰もそれを笑うことは出来ない」
「俺もオセローは愚かだと思う」
 演じてきている彼にしてもだというのだ。
「そして悲しい」
「まさに悲劇の主人公だね」
「何と愚かで何と悲しいのか」
 オセローについてこうも言う。
「だからこそ演じがいがあるよ」
「そうなるね、演出する方もね」
「しがいがあるね」
「あるよ、実にね」
「ではね」
「ああ、今度の舞台もな」
 そのオセローもだというのだ。
「演じていくさ」
「頑張れよ、家族もいるしな」
「綺麗な妻がな」
 グレイブは笑ってクレーシーに述べた。彼も家庭がいてその妻はというのだ。
「いるしな」
「デズデモナがだね」
 そのオセローの妻の名前がここで出る。
「いるね」
「幸せだよ、俺は」
 グレイブは笑顔のままこうも言った。
「本当に」
「オセローみたいにだね」
「いや、オセローはデズデモナを殺してしまうから」
「そこは違うね」
「嫉妬、疑惑、憎悪」
 オセローが陥った地獄だ、旗手イヤーゴに囁かれその地獄の中に陥り遂には破滅してしまうのだ。
 だが彼はオセローを演じていてもオセローではない、だからこう言うのだ。
「俺は妻を愛しているし妬み深くもない」
「大丈夫だね」
「そう、
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