第三章
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「こっちは人手が足りないからな」
「こっちに来てだね」
「ああ、働けってな」
こう声をかけたというのだ。
「それでこっちに来てもらったんだよ」
「そういえば娘さんいたんだったね」
ゲンナジーはお爺さんと話しながらこのことを思い出した。
「僕が子供の頃にモスクワに出てたんだ」
「そうだよ、けれど戻って来たからな」
「その分賑やかになったんだね」
「そうだよ、娘夫婦に」
それにだというのだ。
「孫娘も来たんだよ」
「お爺さんのだね」
「そうだよ、息子夫婦に三人」
モスクワに言った娘さんのお兄さんだ、こちらは男の子が二人に女の子が一人だ。三人共ゲンナジーの馴染みで既に結婚している。
「そこにもう一人来たんだよ」
「成程ね」
「女の子だよ」
つまりお爺さんから見れば孫娘だ。
「その娘も来たからね」
「賑やかになったんだ」
「その分、いや嬉しいよ」
お爺さんはゲンナジーに上機嫌で語る。
「娘が帰ってきて明るくなって人手も増えて」
「いいこと尽くめだね」
「家族は多くないとな」
「そうそう」
ゲンナジーの家にしてもそうだ、彼には弟が二人、妹が二人いて従兄の一家も一緒に住んでいる。農家には人手が必要なのだ。
「だからいいことだね」
「うん、そして」
「そして?」
「その孫が」
孫娘がというのだ。
「またいいんだよ」
「可愛いんだ」
「この村で一番かもしれないね」
そこまでだというのだ。
「凄い美人なんだよ」
「本当に?」
「わしが嘘を言ったことがあるかい?」
お爺さんは冗談めいて返すゲンナジーに問うた。
「これまで」
「いや、ないよ」
ゲンナジーは今度は純粋な笑顔で答えた。
「それはね」
「それならわかるな」
「うん、そのお孫さんは凄く可愛いんだね」
「うちの婆さんの若い頃そっくりだよ」
今度はこんなことを言ったお爺さんだった。
「いや、本当にいい娘だよ」
「おのろけが入ってるよね」
「入ってるよ」
ここでも正直なお爺さんだった。
「実際にね」
「そのことは認めるんだね」
「だからわしは嘘は吐かないんだよ」
それは決してというのだ。
「だからだよ」
「そうなんだ」
「そう、だからね」
「一度その娘と会ってみたいね」
ゲンナジーはお爺さんと話していてこう思った。
「それなら」
「そうしてみればいい、そういえば御前さんは」
「僕は?」
「相手がまだおらんかったな」
「ああ、奥さんだね」
「そうだよな」
「うん、そうだよ」
今度はゲンナジーが答える、素直に。
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