第三章
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「だからどうしようかと思ったのじゃ」
「左様か」
「そうじゃ、しかしじゃ」
「しかしじゃな」
「やはり足軽は実入りがよい」
手柄を立てればだ。
「殿は褒美を弾んでくれるしのう」
「けちじゃと聞いておったがな」
「いや、かなりのものじゃ」
信長は存外そちらも弾んでくれる、だからだというのだ。
「足軽をしておると困ることもない」
「ではじゃな」
「うむ、一人ならこのままおってもよい」
一人なら死んでも困る者はいない、そうであれば気楽なものだ。しかし今の彼には家族がいる、それでこう言うのだ。
「しかし今は違うからのう」
「そうはいかんな」
「うむ」
こう為次に話すのだ。
「これからはどうするかじゃな」
「また百姓に戻るのか?」
「田畑を買ってか」
「そのうえでそうするのか」
「それも悪くないのう」
甚吉は為次の百姓に戻るのかという問いに悪いものを感じなかった、それで深く考える顔でこう言うのだった。
「町人をするにしても手には何もないわ」
「そうじゃな」
「わしが出来ることは足軽とな」
「田畑を耕すことじゃな」
「それ以外は出来ん、ではな」
それではというのだ。
「これからのことも考えるか」
「うむ、そうする」
そうした話をしてだった、そうして。
甚吉は手柄を立てる中でこれからのことも考えていた、自分が戦で死んでは女房と倅が困るからである。
それで悩んでいた、その中で。
また戦だった、今度の戦は加賀だった。
加賀に向かう途中でだ、甚吉は仲間達に尋ねた。織田の軍勢は北に北にと向かっている。
「次の敵は誰じゃ」
「うむ、上杉らしいぞ」
「上杉謙信とのことじゃ」
「何と、越後の龍か」
謙信の名を聞いてだった。、甚吉は唸る様にして言った。
「負け知らずと聞くが」
「そうらしいな、甲斐の武田とも互角にやり合っておる」
「大層強いらしいぞ」
「毘沙門天の化身とも言うしな」
「鬼の様な強さとのことじゃ」
「今回は危ういかのう」
甚吉は唸る様にして言った。
「上杉が相手では」
「何、数はこっちの方が多いらしいぞ」
「しかもこちらには柴田様がおられる」
「明智様も丹羽様もな」
「織田家の名将が揃っておるぞ」
仲間達は怪訝な顔になった甚吉に笑って返した。
「大丈夫じゃ」
「今回も勝てるわ」
「だから安心していこうぞ」
「この戦いもな」
「うむ、それならのう」
甚吉も気を取り直した、そしてだった。
彼もまた北に進んでいく、織田の兵は確かに多くしかも柴田や丹羽の姿も見える。例え謙信が相手でも多くの者は負ける気がしなかった。
だが川を渡ったところでだ、とんでもない報が来た。
「能登が陥ちたらしいぞ」
「何と、畠山がもたなかったのか」
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