第二章
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「女房にするわ」
「うむ、そうせよ」
「御主もいい歳じゃしな」
「それではな」
「何か凄いのう」
甚吉は銭を見つつ女房を迎えることに思いを馳せつつ仲間達に言う。
「村におったらこんな銭手に入らぬわ」
「女房な」
「わし等はな」
「そもそも田畑も貰えぬ」
一人がこう言う。
「絶対にのう」
「そうじゃ、田は弟には分けぬものじゃ」
「分けていてはなくなってしまうわ」
その家によって持っている田畑は限りがある、それを分けていくとそれぞれの取り分が減っていってどうしようもなくなるのだ。
「だからじゃな」
「田畑は弟には分けぬ」
「そんな馬鹿なことは誰もせぬ」
「たわけじゃ、たわけ」
たわけという言葉は実際にこの田を分けるということから来ている、田を分けていってはやがては暮らしていけなくなるからだ。
「それはないわ」
「うむ、絶対にな」
「そんなわし等がここまで銭を手に入れることはないわ」
「村におっては女房すら迎えられん」
「やはり足軽になるしかないわ」
「その通りじゃ」
「よし、それでじゃ」
甚吉は目を輝かせてまた言った。
「わしはもっともっと手柄を立てるぞ」
「家を買うて女房を迎えてもじゃな」
「まだまだじゃな」
「そうする、またこれだけの銭を手に入れてみせるわ」
こう決意するのだった、そして。
甚吉は実際に家を買い女房を貰った、やがて子も出来た。そしてその子、倅の為にも戦に出て戦うのだった。
手柄も立てて銭を手に入れていく、だが。
仲間は気付けば戦で死んだ者もいれば辞めた者もいる、彼はある日残っている仲間にこんなことを言った。
「寂しくなったのう」
「うむ、死んだ者もおるしな」
「戦をしていれば死ぬのは当然じゃがな」
「それでもな」
仲間の為次もこう言うのだった。
「寂しくなったことは辛いな」
「全くじゃ」
「しかしじゃ、御主はまだ生きておるではないか」
「御主もな」
甚吉もこう為次に返す。
「お互いにのう」
「戦が多いとのう」
それだけでだ。
「やはりわし等は出てな」
「手柄を立てればよいがな」
「下手をすれば死ぬわ」
「そして辞めた奴もおる」
今度はそうした者のことも話す。
「銭を手に入れて。商売とかをはじめてな」
「それぞれじゃのう」
「わしものう」
甚吉は自分のことも話した。
「これからどうするかじゃな」
「御主も辞めるのか」
「いや、そこまでは考えておらんが」
「女房も倅もおるからか」
「うむ、死んではな」
その女房や倅が困るというのだ。
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