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ヒゲの奮闘
第一章
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ている。その心は阪神にのみあるのだ。
 だがこの三人を擁していても阪神は優勝出来なかった。絶対的なエースが三人いても。ピッチャーはよかったのだが打線が弱かった。その為容易に勝てはしなかったのだ。
 だから阪神は優勝出来なかった。昭和三九年に優勝してから二年も。貧打が全てを悪くしていた。この四二年も。だから村山はこの日も完封する気で投げていた。甲子園のマウンドに仁王立ちしていた。
「村山、やったれや!」
「相手が鯉でも容赦するなや!」
 この時代も阪神ファンは変わらない。熱狂的であり、他には何も目に入らない。この日は広島が相手なので観客は巨人戦の時程ではなかったがそれでも二万近くがいた。
 村山は相手が誰であろうと手は抜かない。それが巨人であろうと当時弱小球団であった広島であろうとも。この時の広島は黄金時代なぞまだ先の華のない球団であった。衣笠はまだ頭角を現わしてはおらず、山本浩二もいなかった。後に広島の二枚看板となった二人がいないのだ。それを思うとやはり寂しいものがあった。
 だが投手陣はよかった。少なくとも阪神打線を抑えるには充分であった。
「今日は打つやろかな、あいつ等」
「さあ」
 一塁側はおろか三塁側にもいるファン達は少し諦めた目でナインを見ていた。
「打たへんのがうちの打線やからな」
「そやな。けどホンマどうにかならんのかいな」
 ファン達はいつも打線のふがいなさを見て溜息をついていたのだ。
 かってダイナマイト打線と呼ばれたのは遠い過去である。阪神の看板の様に言われているが実は阪神は伝統的に投手のチームである。それは今でも基本的に変わりはしない。どれだけ弱くてもピッチャーで困ったことはあまりない。先発にも中継ぎにも抑えにも。右も左もいる。甲子園がそれを欲しているのかいつも個性に満ちたピッチャー達がマウンドにいる。だが野球は九人、ベンチを入れると二十五人、そして監督やコーチも入る。総合力で行うのだ。ピッチャーは確かに最も重要だがそれだけで勝てる程甘いものではないのだ。
 落合博満が守備力を徹底的に重視するのもそれだ。ピッチャーをフォローする防御力があるからこそ彼の采配は生きるのだ。そして打線も。そういった諸要素がないと野球は勝てない。この時代の巨人は投手力もさることながらナインの守備力も他の球団の追随を許さなかった。打線には王と長嶋がいた。だから無敵だったのだ。
 巨人程の総合的な守備力はなく、打線は比べるのも憚れる程御粗末であればどうなるか。言うまでもない。だからこの時の阪神は勝てはしなかったのだ。この日もそうであった。
 四回を終わって阪神のヒットは何と僅か一本。対する広島は三安打。華のない広島打線よりも下であった。
「今日もさっぱりやな」
「何でこんなに打たへんねんやろな、いつも」
 ファンは攻撃の時に
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