第一章
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水辺の菖蒲
菖蒲はよく不思議な花だと言われている。
白川光弘はその話を友人の多川雅道から聞いた、光弘は茶色にした髪を女の子で言うショートにした小さな目の少年だ。眉は黒くしっかりとしていて薄い唇は真一文字だ。顔はすっきりとした縦に長めのもので背は一七〇位だ。青いブレザーに赤いネクタイ、そしてズボンはグレーと白のタートンチェックである。八条学園高等部の二年だ。
その彼にだ。雅道はその巨大な筋肉質の身体と顔から言うのだ。
「あの池な、源氏池」
「光源氏が行ったとかいう池だね」
「ああ、そこな」
「光源氏って実在人物じゃないよね」
「それでもそう言われてるんだよ」
この辺りはどうも現実と架空が一緒になっているらしい。
「あそこの池に須磨に流されている時に来たってな」
「それであの池にだね」
「満月の夜に行って菖蒲を一輪取って想い人にプレゼントすれば」
「その恋が成就するんだね」
「そう言われてるんだよ」
「あそこ確かに菖蒲が一杯咲いているね」
「通称菖蒲池っていうだけにな」
かつては奈良県にあった遊園地だ、今はもうない。
「菖蒲が多いよな」
「そうだね、そしてあそこでだね」
「菖蒲を取ってな」
そしてだというのだ。
「プレゼントするんだよ」
「ううん、本当かな」
「どうだろうな、けれどな」
「その池に行ってだね」
「菖蒲は綺麗だしな」
「うん、だからだね」
「行ってみたらどうだ?」
雅道はその厳しい顔を微笑まさせて光弘に言う。
「御前もな」
「僕も?」
「誰かいるだろ、好きな人は」
雅道は光弘の目を見て尋ねてくる。顔はいかついが目は優しい。まるで雄牛の様な目である。
「そうだろ」
「それは」
「そのことは聞かないさ」
光弘を気遣ってだ、そうするというのだ。
「まあそれでもな」
「若しいれば」
「行ってみろよ、満月の時にな」
「源氏池まで行って菖蒲を取ってだね」
「そうしてみればどうだよ」
「そうだね、それじゃあね」
「それで恋が適うならいいだろ」
雅道はこう光弘に話す。
「そうしてみたらな」
「考えてみるよ」
「告白してもそれで受け入れてくれるとは限らないからな」
現実は甘くはない、そこで玉砕することなぞ世の常だ。むしろ玉砕で済めば運がいい。中にはどうにもならない精神的ダメージを受ける者もいる。
「花に助けてもらうならいいだろ」
「花だね」
「そうでなくても菖蒲は綺麗だしな」
「そうそう、濃い青でね」
「水辺の青い花は絵になるしな」
「その花を満月の時に」
「ああ、取るんだよ」
そうすればいいというのだ。
「そうしてみるか」
「そうだね、考えてみるよ」
こう話してだった、そのうえで。
光弘は
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