進みゆく世界
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元近くに顔を埋める。
「んー。やっぱり凄い落ち着く。このまま、寝ていいですか」
「お前、オレの話を聞いて――」
「そんなの、どうでもいいですよ」
「いいや、理解していない」
女性の耳元で、男性の震えた声が呟かれる。
「そういうことじゃ、ないんだ。決して許されない罪を知らぬお前に押し付けた。私が踏みにじったのは個人の人生だけでなく、倫理そのものなんだ。お前はそれを理解していない」
「そんなこと、どうでもいいんです。ボクは我侭だから、そんなの、どんとこいです」
マーキングをするように顔をうずめながら、本当にどうでもよさそうに女性は言う。
「あの日、先生が買ってくれなければ、ボクは野垂れ死にか、変態の玩具でした。けど、先生のお陰で、ご飯が食べれました。暖かな部屋で、抱きしめられて眠ることが出来ました。色んなことを教えてくれて、先生のお陰で、科学が好きになりました。憧れだった魔法を、教えてくれました」
パチパチと、暖炉の中で薪が燃え爆ぜる小さな音が部屋の中に響く。その炎の熱よりも女性は男性の熱の方が暖かいように感じた。
「先生のお陰で、その魔法を使い続けられてます。まだ空は飛べないけど、きっといつか飛べます。ボクは先生の味方です。先生がいないのは嫌です」
「……道具として見ていたのにか」
「ボクは別に、損はしていません。得ばかりで困ってます。それに道具でいいです。道具はうまく使わないとダメです。あと、身近に置かないと駄目です」
一層強く、女性は抱きつく。
「ボクは先生の奴隷ですから、離れるのはダメです」
少しして、男性の手が女性の頭に置かれ、優しく撫でられる。
「そうか。離れられないか。ならまあ、これからも宜しく頼む」
「はい。ただ、悪いと思ってるなら、今日は一緒に寝てください。ぎゅーっと、後ろから強く、抱きしめて」
「……」
「考えても、ダメです。はむはむ」
「甘噛みやめろ」
首筋に噛み付いてきた女性を、男性が引き剥がす。女性はひどく嬉しげに口元を緩ませる。
「あ、そうだ。よければ先生の、昔の話聞きたいです。前の世界のこととか、来たばかりの頃のこととか。どんなふうに生きてきたか、寝るとき聞かせてください」
「まあいいが、お前疲れてるんだろ。早く寝ろよ」
「やです。寝ません。根性で起きます」
「寝ろよ」
その夜、一人用には大きく、二人用には小さなベッドの中に二人はいた。語られる物語は波乱万丈に満ちており、その物語は朝日が差し込むまで続けられた。
日が昇った頃、ベッドの中にはやっと眠った二人の姿があったという。
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