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魔法世界の臆病な「魔法」使い
進みゆく世界
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も怖かったと、男性は言う。
 男性の瞳が、女性を見る。

「だから、お前を使ったんだ」

 その意味を、女性はすぐさま理解した。

「残っていた金で奴隷を買ったよ。臆病だった私は、変わり身にしたんだ。奴隷の少女を育てて知識を与え、世間的な発明者にした。この世界の人間を通せば、そうすれば私が悪いんじゃないと、言い訳できる気がしたんだ。どこかの誰かを出来るだけ殺さないよう、少しずつ知識を出すことにしたよ」

 知識を止めるわけにはいかなかったと、男性は言った。殺してしまった彼のために。そしてどこかにいるはずの、男性が殺してしまった他の誰かの為に。枯らしてしまった芽を、男性は育てなければならないと思った。
 そんな事を思いながら、これ以上奪うことが男性は怖かった。
 その使命感さえも、勝手な思い込みだというのに。そう、男性はわらった。

「何故、ボクだったんですか。適当な他の誰かでも、良かったはずです」
「奴隷だったからだよ。自分勝手な罪悪感を押し付け、私が気兼ねなく道具として操れる相手。社会的な目を気にせず、捨てていい相手。きっとその相手は名声を手に入れるだろうね。卑屈な私はきっと、自分でしたことなのに嫉妬してしまうと思った。だから見下せる相手を。年下の少女なら、なお条件に合うと思ったよ」

 それでもお前だったのは、足を向けたその先に偶々いて視界に入ったから。必然性などなくただの偶然だと、男性は言う。
 ずっと思ってきた『何故』。望んだその理由を女性は何一つ隠されることなく男性から話される。

「優しくしたのもその罪悪感からだ。死ぬしかない奴隷を助け慈しむ。そこまでしてやるんだから、どう扱ってもいいじゃないかって、そう思い込んで……臆病な小心者とは、私を体現する言葉だよ」

 男性がカップを置き、頭を下げる。

「済まない。これが私の、オレの、お前を選んだ理由だ。謝ってもどうにもならないことは理解している」

 ずっと言わず、今になって男性がこの事を話してくれた理由を女性は考える。きっと男性は、いつか胸の内を吐き出したかったのだ。そして今なら大丈夫だと思ったのだ。糾弾され絶縁されようと、女性は問題なく生きていける。十分な知識と教養を与えたから、研究者としても一人でやっていける、そう考えられたのではないか。そう、女性は考えた。
 だから、女性はカップを置いて立ち上がり、男性に近づく。
 それは間違いなのだと、教えるために。

「大丈夫です、ボクは気にしてません」

 ソファーの時と同じように、女性は男性の膝の上に乗る。
 違いは、先ほどとは姿勢が逆だということだ。正面から抱きつくように、女性はひとまわり以上大きい男性を抱きしめる。姿勢の関係で、先ほどよりも女性の頭部は上の位置に来るので胸というより首
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