暁 〜小説投稿サイト〜
魔法世界の臆病な「魔法」使い
進みゆく世界
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ずっと昔にされた話を思い出し、女性は頷いた。男性はこことは違う世界からこの世界に来た。その世界ではこの世界は、物語の中の世界だった。
 知らぬ誰かならきっと、戯言だと笑い飛ばすだろう話。けれど女性は、男性の言葉だから、それを信じた。

「私の教えた技術は……科学は、その世界の物なんだ。何十年、何百年と数多の科学者が研究し、そして積み上げてきた結果なんだ。そして私は、同じ学問の徒ではあったけれど、その世界ではただの学生だったんだ」

 堪えてきたものを押し流すように、男性は話し続けた。
 何年もの間溜められた心は、堰を切られ濁流となる。

「科学技術を作物に例えた話を覚えているかい?」
「アイデアを種とし、その時代という土壌に植え、肥料や水の量、温度や湿度などの試行錯誤をして、より良い果実を実らせる。そして出来た果実が、その世界に行きわある」
「……よく、覚えているね。その果実を誰もが食べ、生活の糧とする。そしてその中の誰かが、その熟した実から種を取り、また植える。出た芽を時に腐らせ、枯らせながらもより甘い実を、大きな実を作ろうとする」
「そしてその樹が、大きく、高くなるように。世界中の人が気づけ、その実を手に取れるように。その樹の上で、葉に乗り果実に誰もが手を伸ばせるように」
「そしてその実を取ろうと手を伸ばした人が、より遠くまで、より多くの世界を見渡せるように。誰もがその樹に乗れるように、樹を、天へと伸ばす」

 女性が小さかった頃、男性から教えられた言葉だ。その言葉を胸に、一時も忘れずに女性は今までを来た。

「けどね、私はその樹に、毒を植えてしまったんだ」

 

「科学者とは、研究者とは未だ見えぬ地を切り開かんと足を踏み込む、有志だ。科学は一日で成る物じゃない。誰かの発見があるからこそ、また誰かの発見がある。誰かの実らせた果実を食べ、種を受け取るんだ。そして繋がっていくんだ。けれど私は、その種を奪ったんだ」

 滔々と。
 言葉は流れ続ける。

「学生だった私はね、種を植える研究者じゃなかった。配られた果実を食べるだけだった。そんな私が、その実を持ったまま、この世界に来てしまったんだ。そしてその種を植えてしまった」

 男性は、それは強すぎる毒だったと言った。

「私が植えた種は、私の世界の誰かが身命を賭して明かした成果の結晶だ。それをただ教えられただけの私が、この世界に私の名前で流してしまった。それは決して許されることじゃない。人の功績を自分の物のように扱う。それはただの盗人だ」
「よく、分からないけど。先生は泥棒じゃないよ」
「いいや、泥棒さ。それも最悪の泥棒だ」

 そして男性は、その過去を語りだす。

「種の系譜を甘く見すぎていたんだ。それを初めて自覚したのは、最初の知識を
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