進みゆく世界
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いのつもりだったが、実際に言葉にするとそうなのではないかという恐れが女性の脳裏に浮かぶ。男性に嫌われる。その想像をして、女性は声が震えた。
小さく、男性は呆れたように息を吐き、持っていた本から手を離し、女性の体を寄せ頭に手を置く。びくりと、女性の体が震える。
「そうならとっくに切り離してる安心しろ。お前には色々と恩もある。嫌いになんてならないよ。……まあ、少しくらいは離れてくれとは思うけど」
少女はとても嬉しそうな緩んだ顔になる。乗せられた手に頭をこすりつけ、撫でろと行動で要求する。
「ボクは先生の奴隷ですから。離れるのはダメです」
「あー……何年前の言葉だ。忘れてくれ。もう無しでいい」
「嫌です。忘れませんし、無くしません――全部、先生のおかげですから」
髪を撫でる手の感触と、伝わる熱の心地よさに女性は目を細める。
男性は片手を女性の前に回し抱きしめるようにし、もう片方の手で目の前の髪を撫でる。
「寝癖か。少しは気をつけろよ」
「はい。よければどうぞ」
嬉しげに、女性は持ってきた櫛を男性に出し、僅かに体を起こす。男性は呆れながらもそれを受け取り、女性の髪に通して梳いていく。
「切ったりしないのか。長いと大変だろう。上手く洗えなかったりさ」
「もしかして臭いますか!?」
慌てて離れようとするのを男性は抱きしめて無理矢理に抑える。
「臭わないから気にするな。単に色々と面倒だと思っただって」
「良かったぁ……長いと少し大変ですが、ボクは面倒だとは思いません。先生が昔、髪は長いほうが好きだって」
「……それで切ってないのか。というか言った覚えがないぞ」
記憶を巡り、男性が言う。
「長いの、嫌いなんですか?」
「いや、好きだ」
「なら良かった」
安心したように女性が言う。
一通り梳き終わり、最後に男性が軽く手で髪を撫でる。女性が再び体を倒してくるのを受け、ふと思い立ち、その頭の上に男性は軽く顎を乗せる。女性は男性より頭一つと少し、背が低い。顎を載せるには丁度いい位置に、女性の頭はあった。
「今日はまた、どうして来たんだ」
「暫く休みなんです。疲れてて、だから、休もうと思って」
「ならどうして」
「ここが一番、ボクが安心して休めるからです。あの家のベッドで寝るより今、こうして膝の上にいる方が、ボクは絶対休んでます」
女性は力強く断言する。
「なので今日は一緒に寝ましょう。昔のように抱きしめられて眠ることを所望します」
「随分昔だなおい。トラウマは克服したはずだろ」
一時期、女性は幼少時の体験から一人で寝れない時があった。その際、女性の要望で男性が協力した事があった。
「トラウマは関係ありません。疲れたボクが最高に
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