MR編
百三十一話 始まりは森の中で
[1/8]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
『…………ふぅ、寒ぃ』
ザク、ザク、ザクと、雪を踏みしめ、地面に足がめり込む音がする。
上り坂を歩く彼の周囲には、キラキラとした水晶が光り、夜の洞窟の中を明るく照らす。
向かう先に有る洞窟の出口から見える空には雲一つないのに、どう言う訳だか虚空から降り注ぐ雪の勢いは衰える事は無かった。
『おーい、疲れてないんですか〜』
『え〜?こんな景色見てたら疲れないよ〜』
『テンションってこええよなぁ……』
彼の声に、笑いながら先をふらふらと左右に落ち着きなく歩いて居た少女が答える。
勢いが良いのは悪い事ではないのだが、不意打ちが致命的に成りかねないこの世界でそうも無警戒にそこいらをうろうろされると、その内地雷かデストラップを踏み抜くのではないかとヒヤヒヤする。
『やーれやれ』
まぁとは言っても、彼女がこうしてやたら先行するのは、別に何時ものことと言えばそうなのだ。
それでいて、其れなりに長いこのダンジョンを超えて此処まで来れているのだから、案外彼女には危険を避けるような天性の何かが有るのかもしれない。
と言うかそもそも、大体の危険はその強さでどうにかしてしまうのである。
『わぁぁ……!』
『…………』
……だからと言ってこのようにやたらフラフラと歩くのもどうかとは思うが。
『ほら、行くぞ。もうちょいで出口なんだ。こんなとこで油売らない』
『えー!?も、もうちょっと……!』
言いながら、りょうは追いついた彼女の首根っこを掴んで引きずって行く。やがて……
────
「…………ふぅ、寒ぃ」
ザク、ザク、ザクと、雪を踏みしめ、地面に足がめり込む音がする。
夜のアインクラッドは、街明かりの無い場所だと割と暗い。外周部に近いこの場所だと天気が良ければ月と星の明かりが周囲を照らすのだが、雪の降る今の空模様では其れも叶わず、屋根が有る筈なのに、相変わらずこの浮遊上の雪は一向に衰える気配が無い。
必然、暗い暗い夜の森を照らすのは、リョウの隣に浮いている光球の光だけだ。
飛行制限時間の無くなった今のALOで、こんな風に零下10度以下。おまけに雪の降る夜の森を歩きたがるのは、自分くらいのものだろうな。等と考えて、彼は人知れず苦笑する。
特に理由が有るわけではない。雪道を歩いた事なら今の自宅では無い。育ちの故郷である福島で嫌という程経験があるし、特にこの行動にゲーム的なメリットは無いだろう。
ただ強いて言うなら、“そういう気分”だったと言うだけの話。
何しろ平地で木々が林立する雪景色の中を夜に歩くなど、現実世界では、それも日本の東京や川越では滅多に見る事叶わない体験、風景だろう。
リアルとは違う風景を見る事が出来るのも、VRRPGの醍醐味である。現に目の前の風景は確かに険しいとは言え、ちらちらと光球の光を
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ