番外中編
蒼空のキセキ5
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なたも、私のことを、忘れないでね……)
それは、酷かもしれないけど。すごくすごくつらいかもしれないけど。
私のために、あなたは一生苦しんでしまうのかもしれないけど。
それでも、私はそんな願いをこめて、彼の胸に顔をうずめた。
◆
◆
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「御主人様、どうなさいました?」
その声に、俺ははっとした。
そして自分が何をしていたのかを思い返して……苦笑してしまった。
「いえ、なんでもありませんよ、牡丹さん」
「……なにかあればどのような些細なことでも仰ってくださいませ。春の件であれだけのことをしでかしておきながら、また何か私に落ち度があれば、今度こそ本家と『神月』に合わせる顔がございませんので」
「……だからそれは勘弁してくださいと……」
相変わらずの牡丹さんの言。もうどれだけ前のことだと言いたくなるが、恐らく彼女は一生このことを言い続けるのだろう。であれば、下手に誤魔化したりせずにそのまま話す方がいいだろう。幸い、別に隠すようなことでもないし。
「……じゃあ、アレ。窓の外、見えますか?」
「空ですね。いい天気です。雲もいくつか見えます」
俺は、雲を見ていた。
懐かしい、まるで階段の様に連なった雲の群れ。
「あの雲が、階段みたいで、ずっと登れそうだな、って思っただけですよ。……自分でも変なこと言ってるっては思うんですけどね。VRMMOのやりすぎでしょうかね」
そこに見えたとある冒険を思い出しながら、俺は苦笑した。
「……」
「どうしました? 牡丹さん」
そんな俺のセリフを、牡丹さんは笑わなかった。いや、確かに彼女は俺の言葉を鼻で笑ったりするタイプの人間ではないのだが、それでもこんな……ほとんど見ない、呆気にとられたような……顔をするような反応をされるとは、俺も思わなかった。
「えっと……」
なんかまずいこと言ったかと思った俺が、なんとか取り繕おうと、頭をめぐらす。
だが、そんな俺の口が気の利いた言葉をひねり出す、その前に。
「ええ、そうですね。その通りです」
牡丹さんは、何かを含んだような声で、そう返した。
その表情はこれまためったに見ない、驚くほど優しい笑顔のそれだった。
その笑顔の意味……俺はまだ、それを知らない。
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