第八章
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くるかも。そしてそのボールをどうするかも言っていた。
「思いっきりスタンドに叩き込んだれ」
「オーケー、ボス」
スミスはニヤリと笑って打席に向かっていた。西本と山田はそれには気付いていなかった。
「まあこっちもそれは隠しとったがな」
野村は山田とスミスを見ながら呟いている。
「わしは意地が悪いよってなあ。手の内は全部見せへんのや」
彼はほくそ笑んでいた。
「とっておきの時までな。そしてそれが今や」
山田が大きく振り被った。そして投げた。スミスは全身に力を込めた。そしてボールにバットを合わせる。
スミスは振り抜いた。打球は一直線に飛んでいく。
「まさか!」
山田は打球の方へ顔を咄嗟に向けた。それは恐るべき速さで飛んでいた。
打球はスタンドに突き刺さった。まさかのソロアーチであった。
スミスは満面に笑みを浮かべてダイアモンドを回る。山田はそれを歯軋りしながら見ていた。
「あれを打つか・・・・・・」
絶対の自信があるボールだった。まさかホームランにされるとは夢にも思わなかった。
スミスはホームを踏んだ。南海に待望の一点が入った。
だがまだ一点だった。阪急の打線なら九回でもどうということはない。山田を気をとりなおすことにして次のバッターである広瀬叔功が入った。
小柄な男である。どちらかというと非力でアベレージヒッターと言える右打者であった。武器はその足である。
「山田はバッターによって攻め方を変える」
野村は山田から目を離さなかった。
「さっきのスミスにしたってそうや。打席に誰がいるか、ランナーがおるかおらんか、そして何処におるかで全部変えてくる。ホンマに大したやつや」
そう言いながらも山田から目を離さない。
「そう、こういう時に広瀬みたいなのに対する投げ方も」
山田は振り被る。そして身体を沈めた。
「わしは全部知っとるんや」
ニンマリと笑いながら言った。その瞬間広瀬のバットが一閃した。
「またか!」
西本はその打球を見て思わず声をあげた。打球はその時には既にスタンドに叩き込まれていた。
「まさかこんな時に・・・・・・」
阪急ナイン、ベンチだけでなくファンも皆呆然としていた。こんな時に思いもよらぬバッターからホームランが飛び出るとは。
広瀬も満面の笑みでダイアモンドを回る。三塁ベースを回ったところで南海ナインが一斉に出て来て彼を出迎える。
「よおやった」
まず野村が言葉をかけた。既にプロテクターを着けている。
「有り難うございます」
広瀬は笑顔でそれに応えた。そしてそこにナイン達が駆け寄る。
「広瀬さん、お見事!」
彼等もまた笑っていた。このアーチが勝敗を決するものであると誰もがわかっていたのだ。
広瀬は彼等の歓喜の中ベースを踏んだ。これで二点
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