第七章
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対しても同じ様なことをしている。
「今日のマウンドはあいつに任せた」
西本はベンチで腕を組んでそう言った。そして試合がはじまった。
南海の先発は山内、決戦に相応しく両チームのエースがぶつかった。両者相譲らない。
二人共絶好調であった。山田は何度かピンチを招きながらもその度に踏ん張り危機を脱した。
山内もだ。今日は変化球のキレが良かった。阪急打線を抑えていた。
「どちらが崩れるかや」
西本はそれを見て言った。
「しかし今日の山田はそう簡単には打てんで。とれたとしても一点か二点や」
慧眼であった。それは的中した。
「この勝負もらった」
西本は確信した。野村はそんな彼をチラリ、と見た。
「どうやら山田には絶対の信頼をおいとるようやな」
ここで彼のキャッチャーとしての顔が出た。
「しかし全く打てないピッチャーというのは存在せん」
人間である以上当然であった。野村は稲尾和久、杉浦忠という恐るべき大投手も見てきた。杉浦はそのボールを受けた。彼等にも弱点はあった。野村はそれを知っていた。
「山田にもある」
それは一発病だけではなかった。
「今日はそれをついたるわ。そして勝ったる」
マスクの奥から西本、そして山田を見て呟いた。彼もまた勝利を求めていた。
彼は六回が終わるとピッチャーを交代させた。佐藤道郎である。
「ホンマに変化球を投げさせるのが好きな奴やな」
西本はこう思った。ここで一つの思い込みがあった。
野村は実はキャッチングがあまり上手くはない。『ナベブタキャッチャー』と揶揄されることもあった。パスボールも案外多かった。動きもお世辞にも速くなく肩もそれ程ではない。それをランナーやバッターの癖盗み、配球、囁き戦術等でカバーしていたのである。頭脳派と言われるがそうしたことがあってのことだった。
その配球も変化球が多い。彼は後にヤクルト、阪神の監督になるがここでも変化球を好んだ。それはこの時からであったのだ。
佐藤は野村の期待に応えた。阪急打線に二塁すら踏ませない。そして遂に九回となった。
マウンドには当然山田がいる。この調子では変える理由がなかった。まずはアウトを一つとる。
そして次は九番である。この時まだパリーグに指名打者という制度はなかった。従ってピッチャーがバッターボックスに入る。
代打か、誰もがそう思った。だが野村はここであえてピッチャーの佐藤を打席に送った。
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