第六章
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マに難儀なやっちゃで」
ここで彼は以前彼と雑談した時のことを思い出した。
「野村と話はするな」
よくこう言う者がいた。オールスターでも南海以外の投手達は彼とバッテリーを組むことを嫌がった。それは何故か。
盗まれるのである。野村はそのピッチャーの球を投げさせ受ける。その時彼はボールから目を離さない。
「野村さんはセリーグと戦っているんじゃないんだよ」
ある他球団のピッチャーが言った。
「俺達と戦っているんだ。そしてボールから色々調べるのさ。そしてそれを後半や次のシーズンに使ってくる。全く食えない人だよ」
そういう男であった。優勝チームの旅行にも追いかけるようにして行った。
「何でこの時期に行くんですか?」
誰かが尋ねた。
「決まっとるやろが」
ここで彼はニンマリと笑った。
「王や長嶋から巨人のサインのことや戦略を盗み聞きする為や。そでなかったら寒いヨーロッパなんか行くかい」
この時の旅行はフランスの航空会社の招待でヨーロッパ旅行であった。当然行くのは巨人である。
彼等の作戦等を仕入れそれをシリーズに使う為だ。これが野村であった。
ペナントにおいてもそうであった。とにかく山田を打てない。
「凄いやっちゃで」
そう言いながらノートをつける。そこには山田のデータがびっしりと書き込まれていた。
「どういう時に何を投げるか」
野村はそれを細かいところまで観察していたのだ。
西本の采配も見ていた。これは案外わかりやすかった。
「やっぱセオリーに忠実なお人やな。間違ったことはせん」
西本の戦術はオーソドックスである。強気な采配であるが基本からははみ出ない。
「やっぱりあのスクイズは異色やな」
昭和三五年の日本シリーズでのことを言っているのである。これがあのシリーズのターニングポイントとなった。
「まああれが間違っとるとは思わんがな」
野村は自分でもああしたかも知れない、と思った。野村もその采配は実はオーソドックスなのである。だが彼は細かいところが西本と違う。
西本は奇襲を好まないところがあった。あくまで正面からぶつかる。しかし野村は時として奇襲を使う。
「あいつの奇襲はホンマに思いもよらんところでやりおるわ」
ある時西本は苦笑してこう言った。彼も野村のその巧みな采配に苦しめられていたのだ。
「監督の仇は俺がとりますよ」
山田は不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「南海は」
彼は野村に対して言った。
「面白いですね、知恵比べと力比べ両方できるんですから」
「何でや」
野村はそこで聞いた。
「野村さんとは知恵比べ、門田とは知恵比べ。近鉄の鈴木さんとやる時とはまた違った意味で面白いです」
彼はここで近鉄にいるライバルの名を出した。
「鈴木とは投げ合いやしな」
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